ジャンボジェット、ベートルズ、ムーズムズ

今年も８月１２日がやって来た。あれからもう３３年がすぎ、その間に３・２０とか９・１１とか３・１１とか、悲惨なテロやら災害やらがいくつもおこって、そのたんびにたくさんの人が死んだけれど、僕にとって一番強烈に印象に残っているのが８・１２の日航機墜落事故で、それはたぶん、僕が物心ついて最初に触れた人間の大量死だったからで、それに飛行機が落ちた場所が僕の住む場所の近くだったというのもあって、隣の家のお姉さんに見せられた週刊誌には山の中でぐしゃぐしゃに潰れた飛行機の機体やらボロボロになった服なのか死体なのかが大きな写真で載っていて、僕はその写真を怖いから見せないで欲しいと言っていたのか、逆にわりと喜んで見たがっていたのか、とにかくその時に感じた、僕が生まれて来たこの世界はこんな大変なことが起こりうる世界なのだ、という衝撃が３３年たった今でもずっと僕の中に残っている。
それだのに僕は拾得にベートルズとムーズムズのライブを聴きに行き、ベートルズが演奏を始める前に、今日は８月１２日ですね、と言うまで、今日が８月１２日だということに気がつかずにいたんだった。隣に座っていた妻に、今、何時？　と聞くと７時５分、と答える。ああ、そうするともう飛行機が墜落した時間を過ぎてしまったのか。拾得に向かって自転車を漕ぎながら見た空は夕日に照らされた雲がオレンジ色に光っていた。飛行機が墜落する前にぐるぐると空を迷走していた夕方の３０分ほどの間、ジャンボジェットに乗った乗客たちが見た空も今日僕が見た空に似ていたのだろうか、と思いながら、ベートルズが歌い出す前にちょっとだけ黙祷した。
ムーズムズは初めて演奏を聴いたが、すごい。うまい。演奏もうまいが作曲というか編曲というか、楽器をどんな音色でどんなフレーズでどこで弾くか、みたいなのがすごくうまいし、３人で一緒になって盛り上がっていくグルーブもすごい。あんなふうにギターが弾けたら気持ちいいのだろうな。キーボードのやっちさんは、やっちさんが脳内でイメージした音が、キーボードから出てくるんじゃなくて、指先から直に飛び出してくる、みたいな感じがする、あるいは脳とキーボードが直結してる、みたいな感じ。