東京観光

 東京観光のことは明日書く、と書いて前回の日記を終えたのだけど、明日が明後日になってしまい、さらに日がたち、東京に行ってからもう今日で一週間になる。東京ではひたすら地下鉄に乗りまくって、「大江戸線はなんでこんなに深いのかしらね」とか「車内に響くギギギギギというこの音は、電車がカーブを曲がるときのブレーキの音なのかしらね」とか、「(地図を見ながら)大江戸線はシオドメから築地市場に向かう途中ですごい急カーブを曲がるんだね」とか、「(地図を見ながら)厩橋のところで大江戸線は橋の下を通らず、橋をよけて線路を作っているけど、何の意味があるのかしら」とか、地図を見ながら地下鉄に乗るのが楽しくてしょうがない。僕は自覚がなかったけれども、実は鉄道ファンなのかもしれない。それも東京の地下鉄が好きな地下鉄っちゃんで。
 泊まったホテルは両国にあり、そこから大江戸線で一駅、厩橋を迂回して蔵前に行き、ちょっと歩いて「アノニマ・スタジオ」に妻と二人で行く。ここでオムトンがライブしたりしたのだったか。と写真でちらっと見たことのあるスタジオ内を見回すが、とにかく人が多い。それもほとんどが女子で、女子というかおばさんおねえさんがほとんどだ。その彼氏、あるいはその夫、という男の人は2,3人見かけたくらいで、あとは50人くらいの女の人がぎっしりと、展示してある服や食器などを見ていた。
 その後浅草寺まで歩くのだけれども、このあたりからはスカイ・ツリーがちらちらと建物の間に見え隠れしていて、すごく高いのだろうけど、微妙に距離があるせいか、それともテレビなんかで見慣れているせいか、あんまり「うわ、まじ高い!」とか驚かない。「あれを高いというのなら、京都タワーだってじゅうぶん高いじゃないか」とあんがい余裕である。余裕で写真を撮ったりなどしている。で、浅草寺いって、演芸ホールいって、というあたりは前回の日記で確か書いた。夜の9時くらいに演芸ホールを出て、そこらへんにいっぱいある飲み屋さんでビールを飲み、ハムカツなんかを食べて、だいぶいい気分になった。それにしても東京の飲み屋さんは活気があって、半分野外みたいになってる飲み屋さんがずらりと並び、そこで若人がワイワイと楽しそうにへべれけになっている。僕の左どなりに座ってるカップルは、どうやら今日初めて顔を合わせたらしく、「今日このままエロいことになってもオッケーなのね? 俺らは。大丈夫なのね? ホントに」ということを、遠まわしな言葉でしきりに確認しあっている。妻の右どなりに座っている女子ふたりは、芸能人の誰が結婚していて、誰が未婚なのか、ということをしゃべり合っている。すでに結婚している芸能人は、この二人の彼氏の候補からはずされることになる。
 そんな感じで「東京は勢いがあるんだね」ということを確認してからホテルに戻り、風呂に入る前についうとうとと居眠りをして、日付が変わってからはっと目覚めて半分眠ったまま風呂にはいり、「ホテルの部屋ってかんそうしてるよね。こんだけかんそうしてたら、ドライヤーとかいらないね。むしろ部屋の空気がうるおっていいかもね」と頭を乾かさずに寝てしまったら翌朝ものすごい爆発あたまになっていてびっくりした。
 翌、日曜日は朝から江戸東京博物館に行った。初めのほうの展示をじっくり見てたら時間がなくなってしまい、特別展のほうはほとんど競歩の勢いで歩き抜けた。ので、何の展示だったかいまいちうろ覚えなのだけれども、たしか特別展のテーマはエッフェル塔だったはず。
 昼飯を食べずに地下鉄を乗り継ぎ、待ち合わせに15分遅れて五反田の東急デパートで妹とその彼氏と会い(東京に住むこの二人と久しぶりに会い、一緒に演劇を観ることにしていた)、挨拶もそこそこにトイレに飛び込み、食料品売り場でおにぎりを買ってアトリエヘリコプターに駆けつけ、ロビーでおにぎりを飲み、O山くんやF見さんと「ごぶさたです」とあいさつをして、それからわっしょいハウスの演劇を見た。この「まっすぐ帰る」という演劇がホントすごくて、なんだかすごいあせる。あせる、というのは僕がいま演劇の台本を書いているところで、この台本をF見さんが演出して、7月に上演することになっているんだけど、「これは俺もぼやぼやしていられない。わっしょいハウスがあれだけの作品に到達したのであるから、俺もばんばって台本を書かねば」というあせり。あんまりあせってるので、「がんばって」と書こうとして「ばんばって」と書いてしまった。めんどくさいので書き直さないけど、これを読む人は「ばんばって」を「がんがって」と読んでください。あ、「がんがって」じゃなくて。
 演劇を見たあとでF見さんたちとデニーズへ行ったことはF見さんがブログで書いている。ので、そちらをみてください(しかしどうも要領を得ないダメな人みたいだな、ここに登場する肥田さんという人は)。
 この日の夜はわっしょいハウスの公演に出ていたJ子ちゃんの家に泊めてもらった。J子ちゃんのお母さんが京都から泊まりに来ていて、お母さんにお茶を入れてもらったり、朝ごはんを食べさせてもらったり、京都の円通寺はとてもいいところなので一度行ってみるといい、と教えてもらったり。J子ちゃんは僕ら夫婦のことが老夫婦に見えたらしいけれど、実は僕も自分でうすうすそうじゃないかと思うふしがあって、「空気枕そっちへ入りゃせんか?」「ありませんよ」「えー、あるだろう」なんていって今回の旅行の準備をしているときとか、今のこの自分を誰かが見たら老人がごそごそと荷造りしてるようにしか見えないだろうな、ということを僕は僕と妻の姿を自分の後頭部を見下ろす視点で想像しながら思う。それから「あ、あった」といって、空気枕が自分の鞄に入っているのを見つける。入れた覚えないんだけどな。
 J子ちゃんとBちゃん(女子)が二人で住む古い家をぐるりと見学する。Bちゃんは「パンツ干してあるけど」とか言って、でも僕も結婚してからは女子のパンツをだいぶ見慣れたので、特に何とも思わないんだけど、いや、何とも思わないわけじゃないんだろうけど、あんまりそのことを考えてもしょうがないし、横目にちらりと飛び込んできたパンツはあえて見なかったものと無視をして通り過ぎ、木枠の窓の洗面所やステンレスの風呂桶やいい具合に黒っぽい色に変わってる廊下の床や柱やらを見せてもらった。
 J子ちゃんとBちゃんは月曜日の朝早くに「仕事だ」と言って出かけて行き、僕らはJ子ちゃんのお母さんとお話をして(円通寺比叡山が見えてとてもいいとこ)、9時過ぎにバイバイをしてまた大江戸線に乗り、築地のすし屋で寿司を食べ、また地下鉄で中目黒まで移動して川っぷちを散歩し(桜はつぼみがぱんぱんに膨らんでた!)、また地下鉄に乗って東京大学安田講堂と図書館と三四郎池の見学をして、夕方に新幹線に乗って京都に帰ってきた。