イギリス旅行38

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5月1日、水曜日。晴れ。国道みたいな広い道から横道に入ってキースリーのバスステーションがある通りに来るとここはやけに散髪屋が多くて、3軒ごとに散髪屋があるくらいの感じで、しかもどの散髪屋も似たようなテイストというか、窓にはってある髪型の見本の写真がどれも同じようなやつで、短髪で刈り上げて、刈り上げたところにイナズマの模様みたいなのが入ってて、模様が入ってるというのは、髪をイナズマとかの模様に剃ってる。しかも写真のモデルの人が全員中東っぽい顔立ちで、このあたりは中東からの移民が多いのだろうか、この人たちの間では刈り上げに模様を入れる髪型がはやっているのだろうか、しかしあたりを見回してみても白人の人ばかりが目に入り、中東風の顔立ちの人も刈り上げの髪型の人も一人も見当たらない。ロンドンでもヨークでも街を歩いている人はおしゃれな服を着て、それが特別におしゃれをしている風でもなく普段着が普通におしゃれな感じで歩いていたけど、キースリーでは適当な服、うす茶色に汚れて首のところが伸びたグレーのスウェットみたいな適当な服を着た太った人たちがつまらなそうな顔で歩いている。イギリスに来てみればどこに行ってもおしゃれな人ばかりだと思っていたのは錯覚で、やっぱし町ごとに特徴があるというか町ごとに雰囲気が違って、こういう町もちゃんとあるんだな。バスステーション前には小さな店がいくつも並んでいて、これはだけど商店街というのとも違って、でっかい建物にコンビニくらいのサイズの店がいっぱい入ってるみたいな感じなんだけど、それにしてもどの店も魅力があんまし感じられないのはどういうことか。100円ショップみたいなドラッグストア、100円ショップみたいな雑貨屋、100円ショップみたいなおもちゃ屋、100円ショップみたいな携帯電話屋、どの店の店員も死んだ目をしてやる気なさそうに働いている、働いているというかぼーっとつっ立っている。いや、僕はキースリーのことなんて何も知らないのになんでこんな悪口みたいなことを書いてしまうのか、失礼じゃないか、キースリーに申し訳ない。バス停には屋根がついてて、屋根だけじゃなくて壁もついてて、25メートルプールくらいの大きさの建物の中にバス停がABC順に並んでいて、あれはいくつくらいバス停があったのか、10個くらいか、行き先によって乗る乗り場が違う。シティーマッパーというアプリで調べてみると僕らが目指すハワースに行くバスはB1かB2かB3のバスで、だから最初僕らはBのりばに行ってみたんだけど、どうも様子が変だ。掲示だの表示だのを調べてみるとBのバスはKのりばから出るんだった。Bはブロンテの頭文字のBらしく、BのりばのBじゃあなかったんだった、ブロンテバスのBだった。Kのりばで次のバスの時間を調べると30分くらい時間があるので、バス停の近くのやる気のなさそうな雑貨屋兼おもちゃ屋に入ってみると、いかにも寒々しい蛍光灯の白い光の下に安っちいおもちゃが無造作に並んでいて、見ているだけで気が滅入ってくる、リュックサックは重たいし。それでも娘はこの中で一番マシそうなおもちゃを選んで、これを買おうかどうしようかと悩み始める。あれはなんのおもちゃだったか、二ヶ月近くたってしまうともうあのやる気のないおもちゃがどんなおもちゃだったか忘れてしまったが、たぶん、プラスチックの触覚というか毛というか、細い突起が全身から生えている芋虫、大人の腕くらいの大きさの蛍光ピンクか蛍光緑のツチノコみたいな芋虫だったような気がするが忘れた。買わずに出る。どうしても欲しければハワースの帰りにもここは通るんだからその時に買おう、と言いくるめる。そろそろ時間だ、とバス停に戻り、Kのりばに三人ほどおばさんが並んでいるその後ろに並んでいるとバスが一台やって来て乗り場の前に止まったのだけど、おばさんたちは全然乗り込もうとしない。これはひょっとするとおばさんたちはルートの違う次のバスを待っているのであって、僕らはこのおばさんたちを追い抜いてこのバスに乗らなくちゃならないのか? とも思うが、とりあえず先頭のおばさんに「ワイ・ドンチュー、このバスに乗らないの?」と聞いてみると、運転手がまだ戻らないから乗らないだけだ、という。このバスはハワースに行くんだよね? と聞くと、そうよ、このバスで大丈夫よ、私たちもハワースに行くのよ、といかにも楽しそうに言うんだ。バスに乗る。モグモグとチョコレートバーか何かを食べてる人がいる。前の方の席に犬を連れたおじいさんが乗ってくる。小型犬。犬の金色の毛はふわふわで、ふわふわというか、頭のところの長めの毛がふわりとふくらんでいて、パッと見は金髪の子供がおじいさんの隣に座ってるみたいに見える。毛がふわふわになるのはイギリスの空気のせいだろうか? 日本ではぺたりと寝ている妻の髪の毛もイギリスに来ている間はふわふわと立ち上がり、なんか素敵な感じになっている。イギリスでは犬はペットというよりも家族みたいだ、バスでは飼い主と隣同士で静かに座っているし、後日行ったロンドンのおもちゃ屋では犬を抱いたおばさんがおもちゃを見ていて、乗り物に動物を連れ込むなとか、店に犬なんか連れて入るな、なんて思う人は誰もいない。