雪柳とありんこ

 京都の町を歩いていると公園や河原なんかに雪柳が咲いていて、雪柳をみるといよいよ春が来たなと思う。
 僕が子どもの頃住んでいた家の僕の勉強部屋の窓の前には雪柳が植えられていて、春になるとずらりと白く花を咲かせていたことを思い出す。あの勉強部屋の窓の前にはいまごろ雪柳が咲いて、ゆらゆらと風に揺られているのかなとか思うと、その雪柳が見える窓辺に置かれた勉強机で春休みの宿題をしている高校生の僕が、今この瞬間もまだ勉強をしていそうな気になる。
 まだ小学校にあがる前、春の温かい日に家の前のコンクリートで固めた段々のひび割れを歩き回るありんこをずっと見ていたのを覚えているんだけど、きっと今ごろ幼い僕が温かい太陽を浴びながらうつむいてありんこをみているんだろうな、とかも思う。
 過去の時間は消えてしまったわけじゃなくて、今でもどこかにちゃんとあって、今の時間と同じように今この瞬間も時間が流れているんじゃないかというような錯覚を、わりと生々しく感じる。
 それはもしかしたら、わっしょいハウスの「アウトドア」を観たせいかもしれない。あの作品を観て以来、僕の時間に対する感覚ががらりと変わってしまったような気がする。

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 今日は仕事が休み。甥っ子のコータローに会いに行く予定。コータローとは今日始めて会う。コータローが母親のお腹の中にいるときに会ったけど、あれは会ったうちに入らないもの。