イギリス旅行1日目

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 それにしても飛行機ってすごく高いところを飛ぶものなのだなあ。地上から雲までは割とすぐに到達しちゃうのだけど、雲の上に出てから、飛行機はさらにもっと上にぐんぐんのぼって行って、雲がうんと下に見える。雲の下はどんよりと白っぽく曇っていたけど、雲の上に出ちゃえばどこまでも青空だ。

 北欧の寒そうな針葉樹林と、あれがフィヨルドというものなのか、入り組んだ海岸線も見えた。いや、海岸線というか、ちょこちょこと暗い緑色の島がある海が見えた。針葉樹林やら海やら島やらは飛行機がまだ雲のちょっと上くらいにいたときに雲の切れ間に見たのだったかな?

 この風景はヘルシンキを飛び立ったときに見たのか、それともヘルシンキに着陸する前に見たのだったか? とにかく寒そうで、人の住んでいる気配がほとんど見あたらず、どこまでもどこまでも森が延々と広がっていた。

 ロンドンへ向かう飛行機の中で、ヘルシンキの空港で買ったオレンジ味のチョコビスケットを食べてみたら、予想と違ってしなしなで、これはしけているのではあるまいか、という食感。いや、ちゃんとビニールの袋に包まれていたのだから、きっと最初からこの食感なのだろう。サクッとした硬い食感をイメージしていたのだったが。このビスケットは、飛行機の中でもイギリスについてからもちょっとずつ食べてたんだけど、なかなか減らなくて、とうとう日本に着くまで持ち歩いてしまい、いまでも日本の僕の家の冷蔵庫の中に三枚か四枚くらい残っている。

 ヘルシンキからヒースローまでは三時間。の予定が、風の具合もあってか、2時間半くらいでついちゃって、ヒースロー空港に降りてみればなんだか年季が入っているというか、いかにも使い込まれている感じというか、ちょっと古い感じで、それになんだが照明も薄暗く、さっき見たヘルシンキの空港があんまり綺麗で明るかったものだから、あれ、ここって少し怖いところなのかな? おっかない人とかがいるところなのかな? などと少し不安になった。

 空気の感じは、ヘルシンキよりはちょっと湿気があって暖かいように感じた気がするが、それはあれから10日ほどたってから思い出しているいまの僕が勝手に記憶を変えちゃっているという可能性もある。

 アニメ映画の『アキラ』なんかに出てきそうな、ちょっとサイバーパンクっぽい感じがする長い通路を延々と歩いて、頭上の黄色と黒の表示を見ながら、迷路とまではいかないけど、それでもちょっと油断すると道に迷っちゃいそうな空港を歩いて歩いて、入国のカウンターへ行く。日本とか韓国とか、10個くらいの国旗が書かれてて、これらの国からきた人はこっち、と矢印。矢印の方の行列に並ぶ。

 カウンターに座っていたのは南アジアっぽい顔だちのおじさん。イギリスというと、なんとなく白人の人が多そうなイメージだったのだけれど、実際に空港に降りてみれば、予想に反していろんな人種の人が入り混じって働いていた。いや、これは、前回僕がイギリスに来た27年前からすでにそうだったのかもしれない、あの当時もイギリスにはいろんな人種がいたような気がするが、何しろ記憶がぼんやりしていて、空港がどんな風だったか全然思い出せない。明け方の、がらんとした広い待合室みたいなところに座って、ヴィクトリア駅まで運んでくれるバスを待っていたんだっけなあ、とうことしか思い出せない。

 カウンターのおじさんに家族三人分のパスポートを見せると、「どこから来たのか?」と聞かれ、「ジャパン」と答える。が、どうも入国審査のおじさんには伝わっていないみたいで、ああ、これはどこで乗り換えたのか、という質問だったのかな? と思い、「ヘルシンキ」とか「フィンランド」とか答えるのだけども、やっぱりおじさんは納得していない様子で、そうすると妻が、「where」じゃなくて「when」って聞いてるのじゃないかと言って、それで「昨日出発したんだ」とか「10日間くらい滞在するんだ」とか答えるが、おじさんは今度はゆっくりと、「君はどこの国から来たのか?」と聞いて来て、なんだ、やっぱり答えは「ジャパン」でよかったんじゃないか。なんの仕事をしてるのかとか、色々聞かれるのかと思ったけど、おじさんは僕ら三人にはあまり時間をかけず、ちょっとほほ笑んですっと通してくれた。意外と簡単だったな。つって、地下鉄の改札まで歩く。

 ここで僕はオイスター・カードを買うのだけど、とにかくまごついて、まずはクレジットカードをどこに差し込むのか分からず、後ろに並んでる人が差し込み口を教えてくれたので「サンキュー」と言ってそこにカードを差し込むと、今度は機械がカードを読み取ってくれず、それならば別のカードで、と妻のクレジットカードを借りてもう一度行列に並び直してオイスターカードを買おうとしたが、妻のクレジットカードもやっぱり読み取ってもらえず、じゃあ、機械を変えてやってみよう、とまた列に並び直して別の機械で手続きをして、そうしたらさっき反応しなかった僕のカードでもちゃんと読み取ってもらえて、なんだ、機械とカードの相性みたいなもんがあるのかしら、とか言いながら「トップ・アップ」をとりあえず20ポンド入れて、それで機械を離れて妻と娘の待ってるところに戻ると(妻はタッチ式のクレジット・カードで改札を通ることにしたので、オイスター・カードは買わなかった)、最後に黄色い丸いところにカードをくっつけたか? と聞かれて、僕はそれを忘れていたから、どうしようどうしよう、20ポンドをドブに捨てちゃったかもしれない、とか思ったけど、またあの行列に並んで自分のカードに20ポンドがトップ・アップされてるかを確かめるのかと思うともうういい加減うんざりするし、いまさらトップ・アップされていなかったとして、このことを駅員さんに伝えるのにどんな風にしゃべればいいのかもわからず、ああ、それならばスマートフォンに送られてくるはずのクレジットカードの利用記録に27ポンドと出てればいいのか、と空港のWi-Fiにつないでカードの利用記録を受信すると、ちゃんと27ポンドって出てるから(カード代が7ポンド、トップ・アップが20ポンド)まあ、大丈夫なのだろう、ということで地下鉄の改札へ行く。

 しかし、いま考えてみれば、妻が心配してたのは27ポンドを引き落とされただけで、オイスター・カードにトップ・アップがされてなかったらどうするのか? ということで、だからカードの利用記録を確認しただけではダメだったんだけど、でも、結果からいえば初回にカードを買うときはカードが機械からビーッと出てきた時点で自分が選んだ金額のトップ・アップがなされていたのだから、問題なかったんだった。カードにトップ・アップされてる金額が乗車運賃に満たない場合は、改札を出るときにものすごい金額の罰金が請求されるとか、そんなことをたしか「妄想ロンドン会議」で聞いたような気がするので、もしトップ・アップができてなかったらどうしよう、と地下鉄に乗るのも気が気じゃない。顔が熱くなってじっとりと汗が出てくる。

 去年出た『地球の歩き方 ロンドン』では、オイスター・カードが5ポンドと書いてあったから、2ポンドの値上げ。それに地下鉄とバスの運賃もそれぞれ10ペンスくらいずつ値上げになってた。

 ピカデリー線でサウス・ケンジントン駅まで。地下鉄だから外の景色なんて見えないのだろうなと思っていたら、途中から電車は地上に出て、そうしたら窓の外の風景がレッド・ツェッペリンの四枚目のアルバムのジャケットの裏の写真そのままで、レンガの家の屋根の上に細い煙突が三本くらい並んでにょきにょきと突き出している。あれは暖炉の煙突なのだろうか。空の色もツェッペリンのジャケットの色と同じ灰色だ。この風景を見たときは「ああ、僕はとうとうイギリスに来ちゃったのだなあ」と感慨深かった。ツェッペリンのあの寒そうな家並みの写真は、イギリスの人からみると、よくある町の風景、というところなのかな。

 レンガの壁には、スプレーで描いた落書きが目だった。

 

 今日はもう寝る時間なので、ここまで。続きはまた明日以降に。