ニワトリの恩返し

 大学図書館で『群馬県市--資料編27民俗3』を借りて来た。資料編27民俗3には群馬じゅうから集められた昔話や伝説なんかが集録されていて、ぽつぽつと拾い読みをしていると大変おもしろい。ああ、僕は群馬で生まれ育ったのに、こんなにも群馬の昔話を知らないものなのか、と思う。これからしばらくは群馬の研究に余暇をあててみたいなどと思う。なにしろ職場が大学図書館なのだから、読むべき資料はどっさりと手に入る(ここの大学図書館は、タイトルに「群馬」が入っている本を947冊所蔵している)。
 群馬の昔話を読んでいて思うのは方言の懐かしさで、話のすじよりも言葉遣いの方にひかれる。たとえば「ニワトリの恩返し」という昔話。

 冬、雪が降って、どこへも行げなくなったころ、屋根から女の子がおちただいね。そいでおじいさんとおばあさんが、おやげながって家い(へ)連れ込んで、ぬくとめたり、かわいがったり、大事(でえじ)にして助けてやった。そしたら、その次の日、こんだあまた女じゃなくて、ニワトリがおりてきて、
「あけてくれい。」
つうわけで、あけて、そいで、二階(にけえ)あげて、
「おじいさん、機(はた)織ってくれらい。」
っつうわけで、そいで、機織ってくれるつうから、どんなもの織ってくれるが知らねえけど、
「じゃ、織ってくれやい。」
っつうわけで、頼んで、織ってもらったところが、
「おれのいいっつうまで、(二階へ)のぼってきやさんな。」
っつうわけでいうから、かまわずに置いて、そして、次の日になって、いっこう音がしねえから、(二階へ)のぼってみたところが、ニワットリが、自分の羽みんなひんぬいて、そいで、ニワットリの羽でもって、反物を織ってただいね。
 そいで、おじいさんに恩返しに、
「これ市場へ持ってって売れば、金(かね)んなる。」
ちゅうわけんなって、それで、そこのおじいさんは、ニワットリのおかげで、えれえ、とくせい(生活が楽になること)になったなんて(利根郡白沢村尾合)。

 こんな短い話の中に群馬の言葉がぎゅぎゅっとつまっている。「行げなくなった」とか「おやげながって」とか「ぬくとめたり」とか「こんだあ」とか「織ってくれらい」とか「織ってくれやい」とか「のぼってきやさんな」とか「ニワットリ」とか「ひんぬいて」とか、そんな群馬の言葉が僕にはとてもおおらかな響きを持っているように聞こえる。聞いてるんじゃなくて読んでるわけなんだけど、こういった昔話を読んでるだけで、僕の頭の中にはこれらの言葉を聞いていたときに僕を取り巻いていた群馬のおおらかな空気が出現するようである。

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今日から炬燵を出す。ついでにベッカムのポスターも出す。僕の部屋は壁が白いので、夏はまあ涼しげでいいのだけれど、冬になると寒々しくてどうもいけない。その寒々しさを少しでも和らげたいために、壁にはコートを吊るしたり、ベッカムのポスターを貼りつけたりして白さを薄める。

どうです。いいポスターでしょう。