またインターネットをはじめた

 と、いうわけで。
 そろそろ春になるので、またインターネットを始めることにした。ひさしぶりにブログを書くので、なんだかもう書き方を忘れてしまった。私はどんなふうにしてブログを書いていたのだったか。いや、自分のことを「私」とか書いていなかったような気がする。「俺」って書いていたのだったっけか? 「わし」って書いていたんだっけか? わしはどうやってブログを書いていたんだろう。書き方を思い出せない。どうも勢いが出ない。

 わしは、去年はまるまる一年間インターネットをやらずに、オンラインの方はだいぶおとなしくしていたんだけれども、オフラインの方ではわりといろいろあって、夏には瀬戸内海の犬島にザ・ノーバディーズのライブに行ったし、F・ジャパンさんたちと朗読公演をしたりもした。秋の終わりには新しい家に引っ越しをした。町内会にも入って、回覧板にはんこを押して隣の家に持っていったりとかしている。それからスーツを着てチーズケーキを買って彼女のご両親にご挨拶をしに行った。「娘さんと結婚させてください」とかそういう感じの。冬には戯曲賞の公開審査会というものを見に行ったりもした。新幹線に乗ってはるばる東京まで。
 それにしても何をどう書けばいいのだろう。なんだかどうでもいいことばかり書いてしまいそう。

 わしは、先月就職活動をしたのだった。ある町立図書館の司書になろうと思い、一般教養のマークシートの試験とか、「自分にはリーダーシップがあると思う」「はい」「いいえ」「友達との待ち合わせには遅刻したことがない」「はい」「いいえ」という性格検査みたいな試験とか、偉そうなおっさん相手の面接試験とか。面接官は副市長とか参与とか教育長とか理事とかで、わしが部屋に入って行ってもにこりともせずにたいへん高圧的。わしが名前を言っても、向こうは名のりもしない。上から目線で傲慢で、それが町民に奉仕する者の態度か! と怒鳴りたくもなるが、きっと行政とかの偉い人はあんなのばっかりなんだろうな、どこ行っても。面接の時間も短くて、わしが(いや、「わし」はちょっと違うか。やはり「俺」か?)、俺がいろいろしゃべってもぜんぜんつっこんで来ない。こんな面接で何が分かるの? という感じ。
 そんなわけできのう不採用の通知を受け取ったんだけど、それまでは結構「いけるかも」とか思っていなくもなくて、だから町立図書館に就職したらあれもしたい、これもしたい、というアイデアが頭の中にうずをまいてうなっていたのだった。まず出版社別に並べられている絵本をジャンルごとに分けよう。「にほんのむかしばなし/がいこくのむかしばなし」とか、「かがくのえほん」とか、「おはなしのえほん」とか。「おはなしのえほん」は絵を描いたひとの名前順に並べよう。佐々木マキの絵が好きになった子は次々に佐々木マキの絵本が読めるように。中学生、高校生の読む本のコーナーを作ろう。図書館ではそういった本はたいてい「ヤングアダルト」という名前のコーナーに置かれることになっているけれど、「ヤングアダルト」ってのは響きがいやらしい(「『ヤング』とか言うな! いつの時代だ!」と中学生高校生は言うだろうし、「『アダルト』とか言うな! エロビデオじゃないんだから!」ともいうだろう)から、「大人入門」とか「学生の定番」とかなんとか漢字のコーナー名をつけて、働くことについての本とか、『アンナ・カレーニナ』とか、みうらじゅんの『正しい保健体育』とか、戦争の本とか、『虚数の情緒』とか、どっかの外国の地誌とか、芸術家の日記とか自伝とか、そういう本をいろいろ置こうじゃないか、ついでにビートルズとかボブ・ディランとかマイルス・デイビスとかのCDもそのコーナーに並べよう、ツェッペリンやジミヘンやザ・フーなんかのBBCライブあたりが中学生の入門としてはいいかもしれない、そうなったら『ウッドストック』のDVDも置きたいなとか考えたり、ここの図書館は雑誌が貧弱(文芸誌なんてひとつもない)だから、『ユリイカ』とか『真夜中』とか『モンキービジネス』とか『考える人』とか『エクス・ポ』とか『nu』とか『Improvised Music from Japan』とか読みごたえのある雑誌を入れようとか、そんなことも考えたし、「安心して老いるために」とかのタイトルをつけた特設コーナーを作って(なにしろその町は高齢者の割合が26.18%で、犬の散歩をしているおじいさんおばあさんをしばしば見かけた)、そこに健康の本とか、遺言の本とか、保険の本とか、アラーキーの写真集とか置こうとか、とにかくいろんなやりたいことを考えた。町の人の家の押し入れに眠っている古い写真を持って来てもらって写真展を開こうとか。町立図書館では日本十進分類法にそって資料を排架すると逆に資料が探しにくくなったりする場合があるので、ふつうの町の人がもっと本をさがしやすい排架方法を考えようとか。
 もしその図書館に就職できていれば、わしは館長の次のポジションにつくことになり、見学しに行ったときに見た館長は「役場から飛ばされて来た図書館のことを良く知らない人」という印象だったので、実質司書である俺が何か企画を考える立場になるのだろうし、そうすれば好き放題できると考えたのだった。
 でも、結局は不採用だったので、俺はまた今までと同じ職場(大学図書館)でこれからも働いて行くことになった。

 と、ここまで書いて来たことはわりとどうでもいいことだったなと今さら思って、やっぱしひさしぶりにブログを書こうとすると加減がわからないというか、なにをどう書くのがいいかよく分からなくなってしまっている。もっと他に書くべきことがいろいろあるはずなんだけれど。去年出たジミヘンのCDのこととか、今読んでいる佐々木中の本のこととか、今月の終わりに出演することになっているリーディング公演のこととか、もうすぐ結婚することとか、新しく俺が書いている戯曲『はだしのこどもはにわとりだ』のこととか、ツイッターを始めてみたけどまだ使い方が分からないこととか。しかしそれらのことも特にブログに書くほどのことじゃないんじゃないかと、一年間ブログを書かないでいた俺は思ったりもする。ブログってなんのために書くのだったっけか。一年前のわしはなにをブログに書いていたのだったか。むむむ。
 ところでこれは犬島にライブに行ったときの写真。バンドメンバーの浅井氏と犬飼氏が昼寝をしているところ。同じ姿勢で寝ています。犬飼氏は屋台の床屋さんで散髪をしてもらい、カリアゲがまぶしい。