犬、ぬいぐるみ、ドア

 日曜日に彼女の家に行って彼女のお父さんに婚姻届にサインをもらったけど、それは実はついでで、本当は彼女の家の犬のお見舞いに行った。犬はタミオという。タミオは最近元気がなくて、ご飯もぜんぜん食べず「もうそろそろあぶないかも・・・」ということだったので、会いに行った。タミオは16歳で、先日長寿犬として表彰状をもらったばかりだった。彼女のお母さんの話では、タミオは阪神淡路大震災のときに産まれたのだという。「地震のときに産まれて、地震のときに・・・」という。僕と彼女が会いに行ったとき、タミオは彼女の実家の玄関でオムツをつけて丸くなっていた。彼女は「タミー、タミー、おー、よしよし、おー、よしよしよし」と頭をなでて、タミオはちょっと目をあげて「誰が来たのかな」と彼女を見たり僕を見たりしていた。僕はタミオをなでなかった。最後のときにあまり親しくない人からなでられても嬉しくないかもしれないと思って。
 タミオは僕らが会いに行った日の深夜に死んでしまった。タミオは滋賀で産まれたということなので、滋賀の動物の霊園のようなところに埋葬されたそうだ(もしかしたら霊園でお母さんやきょうだいたちに会えるかもしれない!)。霊園の係の人がタミオを引き取りに来たときに「何か一緒に箱に入れたいものはありませんか。首輪などの燃えないものは困るのですが、燃えるものなら何でもかまいません。生前好きだったものはありませんか? ぬいぐるみでも何でもいいんです」というので、お母さんは「さあ、それならば」とあたりを探して「ひとりぼっちではタミオがかわいそう」とあたりを探して、ちょうどドラえもんのぬいぐるみ(?)があったので「これを入れてください」と、ドラえもんを一緒に箱に入れたそうだ。しかしタミオは生前ドラえもんと親しかったわけではないらしい。むしろ生前はドラえもんになんの興味も持っていなかったようなので、初対面といってもいいようだ。「僕ドラえもんです」「あ、はじめまして」「これからずっと一緒だね」「あ、よろしく」「うふふふふ(と、ポケットを探る)、どこでもドアー!」「え、なんですかそれは?」「どこでも行きたい所にいけるよ。開けてごらん」「がちゃ」とか、滋賀県の霊園で楽しくやっているのかもしれない。