TOGETHER WITH ROCK’N ROLL

 今日も小学校の図書室でボランティア。
 「この本貸してくださーい」 
 「君、名前は?」
 「えー! こないだ教えたのにぃ」
 と、ぼくがぜんぜん名前を覚えないので子どもが残念がる。むかしっから人の名前を覚えるのが苦手だったというのは、ひょっとしてぼくが人に興味を持たないからなのかしら。どこか、人のことはどうでもいいかも、なんて思っているふしがあるように見うけられる。人にたいして無関心というか。
 「もっと人に興味持とうよ」
 と言われたことも何度かある。AKB48の人の名前も少女時代の人の名前もちっとも覚えられない。

 二年か三年ほどまえに、五反田のアトリエヘリコプターでライブをしたとき、RONNIEさんという人にデモCD-Rをもらった。といっても、ぼくがもらったわけじゃなくて、ぼくのバンドのリーダーがRONNIEさんからCD-Rをもらい、リーダーが、
 「ヒダさんこれ持って帰りなよ」
 とぼくにくれたのだった。そのときも、ぼくはRONNIEさんに無関心で、ほとんど目を合わせることもできず、たぶん一言もしゃべれなかったんじゃなかったかしら。ぼくらのライブをみたRONNIEさんが
 「よかったよ」
 と一言ぼくたちにいい、それにたいして
 「あ、ありがとうございます」
 と答えるくらいしかぼくはできず、だけどリーダーはわりと初対面の人にもものおじせずに向かって行くところがある人だから、リーダーだけはちょっとRONNIEさんとしゃべり、それでお互いのデモCD-Rを交換したのだったと思う。交換というか、ぼくらはRONNIEさんにCD-Rを売りつけて、RONNIEさんは自分のCD-Rをただでくれたんじゃなかったかな?
 「よかったらきいてみてよ」
 という感じで。
 で、そのときにもらって帰って来たCD-Rを、
 「そういえばこんなのがあったんだっけな」
 と引っぱり出して来て、おとといあたりから何度かきいているんだけど、歌詞をじっくりときいていると、RONNIEさんの前向きさというか、心の広さというか、やさしさというか、さみしさというか、そんないろんなRONNIEさんの人柄みたいなものが伝わって来て、
 「お、あんなに近づきがたい空気をかもし出していたRONNIEさんってば、けっこういい人なんだね」
 と思う。いや、「いい人だよ」という話は、RONNIEさんの友だちのザ・プーチンズの人たちからもきいていたから、それは知っていたんだけど、でも、いい人と言われてもどうもちかづきがたい雰囲気で、というのも、RONNIEさんの格好がロカビリーの人とグラムロックの人をあわせたような格好で、長く伸ばした髪の毛のてっぺんがとさかみたいに逆立っていて、派手な柄のシャツにピンクかなにかのラッパズボンかなにかで、もしかしたらサングラスもしていたかもしれない(うろおぼえ)、という格好にびびってしまい、それでぼくらはコミュニケーションを遮断したまま、ライブのあとの打ち上げでもRONNIEさんにしゃべりかけることをしなかった。みんなが舞台でわいわいお酒を飲んでいるのに、RONNIEさんだけは客席にひとりぽつねんと座り、缶ビール片手に足をくんでいた、というあのときの風景が頭に残っている。
 RONNIEさんの“TOGETHER WITH ROCK’N ROLL”という歌はこんな歌だ。

 最後の地震が来たら
 夢と希望とお金を持って
 好きな人と一緒に
 ぼくのところへおいで

 愛しあってる最中に
 ビルが壊れ始めたら
 そのまま二人で
 ぼくのところへおいで

 何がどうなって
 誰がどう言って
 どんなものが襲って来ても
 ぼくたちは素晴らしい

 あれがこうなって
 これがああなって
 どんなことが苦しめても
 ぼくたちはかっこいい

 きのう嘘をついたのなら
 今日も明日もつけばいい
 悩む暇があれば
 ぼくのところへおいで

 最後の地震が来たら
 きっといいことあるよ
 だからみんなで
 ぼくのところへおいで

 何がどうなって
 誰がどう言って
 どんなものが襲って来ても
 ぼくたちはすばらしい

 あれがこうなって
 これがああなって
 どんなことが苦しめても
 ぼくたちはかっこいい

という、えらくポジティブな、というか心の広い歌で、この歌のぼくと他者との関係というのがおもしろい。
「俺」と「おまえ」がいて、「俺」が「おまえ」を好きだとか、「おまえ」がいなくて寂しいとか、そんなちいさなことをRONNIEさんは歌わない。RONNIEさんは「俺」と「おまえ」の関係を外から暖かい目で見守っている人で、愛しあう二人が「愛しあってる最中に」地震がおこったら、「そのまま二人でぼくのところへおいで」と歌う。「みんなでぼくのところへおいで」って歌う。これってなんかすげえ心の広い歌なんじゃね? と、ぼくはキリストとかを連想してしまう。
 今、うちのCDプレイヤーにはRONNIEさんのCD-Rが入っている。このCDプレーヤーは、目覚まし時計がわりに毎朝七時に音楽を流してくれることになっていて、だから七時になると、
 「ズバン」
 と一発、RONNIEさんのたたくスネアの音が響き、それからRONNIEさんの弾くエレキギターがいかにもごきげんそうな前奏をかなで、そしてRONNIEさんがシンコペーションでつっこみぎみに「さーいごのじしんがきたーら…」と歌い出す(書き忘れたけど、12曲入りのこのデモCD-Rでは、すべての楽器をRONNIEさんが一人で演奏している)。
 「お、RONNIEさん、今日も朝から快調ですな」
 と思いながら目を覚ます。RONNIEさんの歌うメロディーはキャッチーで覚えやすくて、一度きいたらすぐに覚えてしまい、なかなか頭から離れない。妻が、
 「仕事中ずっとRONNIEさんが『あれがこうなって、これがああなって』って歌い続けるから、RONNIEさんを目覚ましにするのは、お願いだからやめてほしい」と言うほど。
 RONNIEさんのmyspaceとかtwitterとかないかしら、と思ってちょっと探してみたけど、外国の人ばっかり出て来てあのRONNIEさんがみつからない。