良吉は机の上の顕微鏡をのぞいてから、
良吉「ね、お祖母ちゃん、これ見てごらんよ」
せがまれて母はのぞくがさっぱり分らない様子。
良吉「見えるだろう? きれいだろう?」
母「うん、何だかごちゃごちゃしたものが……」
良吉「何だか分るかい?」
母「ううん」(と首をふる)
良吉「当ててごらん」
母「お祖母ちゃんには六ヶ敷いこと分りませんよ」
良吉「六ヶ敷くないよ……僕の鼻くそだよ、こうやってみると面白いだろう?」
母「まあ」(と、がっかりする)
          (「戸田家の兄妹」『小津安二郎作品集3』)