かぐや姫

noise-poitrine2013-12-08

 妻の友達が家に遊びにくるので、僕はひとりで外出して自由を満喫するという日曜日。
 たまにはひとりで映画でもみようじゃないかと、バスに乗って街に出る。
 ひとりで外食をするとなると、足が自動的にラーメン屋に向かってしまう(ラーメンなんてそんなに好きなわけでもないはずなのに)、というのが僕の悪いくせで、つねづねこの悪いくせを直したいと思っていた。よし、そうだ、今日はひとつこの悪いくせを直すためにあたえられた日曜日なのだと考えてみることにしよう、と今日は田ごとでうどん。とろとろのかつおだしにショウガが死ぬほどうまくて、やはり30すぎたらラーメンよりもうどんなのだな。これからはなるべくうどん屋を見つけて外食をするようにしよう、と決意する。
 うどんを食べてからムービックスで『かぐや姫の物語』を見る。どの映画を観るか迷ったんだけど、『風立ちぬ』も観てみたかったんだけど、ツイッターで誰かが「ときどきかぐや姫しりあがり寿タッチになる」とつぶやいているのを読んで、なんかおもしろそうなんで、今日は『かぐや姫』を見ることにした。
 そしたらもう、泣けて泣けて、映画のあとでトイレの鏡をみたら僕は真っ赤な目をしていて、帽子を深くかぶってうつむきながら寺町通りを歩くことになってしまった。
 なんでそんなに泣くのかといえば、やっぱしかぐや姫に自分の娘が重なって見えることが原因で、赤ちゃんの姫がオギャーと泣くのを聞くだけで涙が出ちゃう。姫が初めて歩くところで、お爺さんが泣きながら「ひーめ、ひーめ」って呼んでるのとか観てると、僕は映画館の座席でぶるぶる震えながら涙をがまんしている。お爺さんの声は地井武男がやってるんだけど、ああ、地井さんは死ぬ前にこんな熱演を残して死んで行ったのか、とか思うとそれもまた泣けてくる。
 俺の娘もこれから人生を生きて行く過程でいろんな楽しい思いをしたり悲しい思いをしたりするんだな、まくわうりとかを食べて「わたしの生まれてきたこの世界とは、こんなにうまい食べものが存在する世界なのか!」とたまげたり、桜があんまりきれいなんで笑っちゃったり、誰かを傷つけたことでめちゃめちゃ悔やんだりするんだろうな、とか思って、そうするともう「ああ娘よ、よくぞ生まれて来てくれた、俺は君が君の人生を味わい尽くせるようにできるだけ努力するからな」と僕は家に飛んで帰って娘を抱いてあげたい、と思いながら泣き続けるはめになったのだった。
 姫が月に帰っちゃうところなんて、もう嗚咽をこらえるのに必死。月の人たちの音楽の圧倒的なハッピー感とか、パタリロみたいな人や子供たちが歌を歌うのとか、姫が地球での生を肯定することばとか、「これだ! これしかない!」という感じ。「高畑勲はこんなすごいことをやってたのか!」とそのすごさにも泣けて来る。
 あんましいろいろ書くとネタバレになっちゃうんで書かないけど、とにかく観たほうがいいですよ。特に僕の父母よ、孫に会えなくてさみしい思いをさせてるけども、『かぐや姫』を観たらそこにあたながたの孫が映ってますんで。

 で、ウサギみたいに赤い目で映画館を出て、もうすぐにでも娘に会いたくてしょうがなかったんだけど、今日は飲み会の約束があるので、飲み会の会場のつんじの家に向かう。
 途中ブックファーストによったら『新潮』の1月号に磯崎さんの名前があったので、ちょっと立ち読みする。テンポよすぎるくらいに飛ばしまくってる磯崎さんのこの感じがたまらないんだよな、と買う。
 つんじの家は築百年の町家だった。つんじはバンドのトランぺッター、として加入予定の人。飲み会のメンバーはバンドの人たちやその家族や友人や。
 メニューは手作りピザと鍋。2歳のHちゃんはピザにチーズを山盛りに盛る。焼き上がったピザは生地が厚くふくらんでパンのよう。食べてみたら生地に油がしみ込んでてジューシーな感じでめちゃくちゃうまかった。
 BGMは「これ聴いた方がいいよ」という曲をユーチューブで探してみんなに聴かせる、というBGM。2歳のHちゃんのお母さんのおすすめは機関車トーマスの歌。「事故は起きるよ、いい気になってると」「集中力なんてたいがい散漫になっちゃうからね」という事故をテーマにした歌、というのが意外というか斬新というか。こんなの放送しちゃっていいの? ととまどう。

 Hちゃんの家はアンパンマン禁止とのこと。というのも、アンパンマンは暴力をふるうからだそうだ。