初めての観劇

 やはり赤ちゃんのうちが一番かわいいはずなのだから、今のこの瞬間が娘の人生のうちで一番のかわいさを見られる時間なのだ、娘のかわいさは娘が成長するにしたがってだんだんとかげをひそめていくにちがいないのだ、と思って日々娘とつきあっているのだが、今がかわいさのマックスだと思ったその二日後くらいにはかつてのマックスを軽く超えるかわいさを娘は身にまとっていて、つまりどんどんかわいくなって来ていて、これはどうしたことか、とたまげる。この調子でどんどんかわいさを増して行ったのでは、将来ものすごい美少女になってしまって嬉しいどころか逆に困ったことになるのではないか、と心配になる。

 娘が初めて演劇を観たのは先週の週末だったか。ユリイカ百貨店とサギノモリラボの『TWO』という作品。上演時間は四十五分。そんなに長いあいだ母親のひざの上でじっとしてなどいられないんじゃないか、すぐに飽きてしまってむずむずと泣き出してしまうのではないか、そうしたら娘を抱いて外に出なければなるまいな、と思っていたのだけれど、上演が始まると娘はだまってじっと舞台を見ているのだった。30分ほどはよそみも身じろぎもせずにじっと舞台を見つめつづけていた。ときどき俳優に向けているのか装置に向けているのか、舞台に人差し指をのばして、あれを見なさい、と私の顔を見上げてくる。最後の方になると飽きてしまったのか、ちょっと泣いちゃったけど、30分くらいは集中して舞台を見ていた。今ここで何がおこっているのか、ということを見極めようとして、眼の前でおこることをじっと観察している、といったふうだった。
 上演を観たあとで、観客として来ていた俳優やスタッフの人らと昼食を食べに行く。僕らが観劇した日曜日の昼公演だけ3歳児以下の赤ん坊を連れて行っても良い、ということになっていたため、この日お昼ご飯を食べに行った人らのほぼ全員が子連れだった。久しぶりに会った人たちばかり。結婚した年にはばらつきがあるのに、子供たちはみな同学年かひとつ違いだった。三条河原町西入ルにある赤ちゃん歓迎のカフェ。メニューには離乳食もあった。
「昔は、赤ちゃんを抱かせてーっていうおばさんの気持ちがわかんなかったけど、今はそれがわかる」
「4人とか5人とか子供を産む人って、もう一度うまれたばかりの赤ちゃんを抱きたいって思ってるからなんだろう」
「もうこの子はだいぶ大きくなっちゃったけど、でもいつか、この子がもう一度生まれたばかりの赤ちゃんに戻るんじゃないか、もう一度あのときのこの子をだけるんじゃないか、っていう思いがどこかにある」
という会話など。
 次回作は子供も大人も楽しめる演劇、というのをやってみたいかも、とふと思う。登場人物はたとえば以下の三人。
1、 ダウザー。細い金属棒を二本持ち、地面の下に流れる水(あるいは金属とか)を探し当てるのが仕事。井戸を掘るために水のある場所を教えてほしい、と頼まれてこの村にやって来た。
2、 ジーパン占い師。ジーパンの色落ち具合を見ただけでそのジーパンの持ち主の職業、年齢、性別、身体的特徴、出身地、好きな食べ物、初恋の人、中学校のときに入っていた部活、などをあてることができる。
3、 魔女。へそに黒い石がつまってしまい、なかなかとれないのが悩み。普段の生活では忘れていることが多いのだが、寝る前にふとへその石のことを思い出して、心配になったりする。
 ダウザーがダウジングで魔女のへその石をさぐり、最後はへそにつまっていた石がとれて大団円、という話。