砂肝

 夏に演劇を観たあとでお酒を飲みに行き、その席で聞いた話。
「砂肝の話聞きたいですか?」
「え、いいよ、砂肝は」
「えー、砂肝の話、すごい、したいんだけど」
「えー、なに、どんな話?」
「してもいいですか、砂肝の話?」
「えー、どんな話?」
「夏にね、男の人たちばっかり集まってね、お酒を飲んでたんですって。それでね、けっこう、すごい、酔っぱらって来て、なんか、ワーッてテンションあがってね、お酒飲んでて、それで、近くに学校があったんだって。夜だからね、暑いし、プール入りてえな、っていう話になってね、忍び込んだんだって、学校の、プールで泳ごうぜっていう話になって、みんなでワーッて、もう、お酒入ってるからね、脱いじゃえーって、男の人だけだし、もう、ぜんぶ、全裸になってね、こういう、アミアミになってるとこあるじゃん? 緑っぽい色の」
「排水口?」
「じゃなくて、こう、まわりの、囲ってあるやつ」
「金網みたいなやつ?」
「そうそう、金網。金網をのぼってね、そしたら、金網の上のとこにとげとげの、なんていうの?」
「刑務所みたいなやつ? 刑務所の塀にあるみたいなやつ?」
「それそれ、刑務所の塀みたいな、とげとげのやつ」
「鉄条網かな?」
「鉄条網? とげとげの? があったんだけど、それ、またいでたらね、誰かが、『警察が来たぞー』って言って、やべえやべえって、みんなあわてて降りたんだけどね、ぱっと見たら、なんか、鉄条網またいだ人の股のあいだからね、なんかぶらぶらーって、たれてるのがあって、『あれ? なんでこんなとこに砂肝がたれてるんだ?』って、砂肝みたいなのがぶらーってなってたんだって」
「え、それって、袋をひっかけちゃったってこと?」
「酔っぱらってるからさ、あんまし、痛いとか分かんなくて、とげとげにひっかけて、ビリッてやぶれちゃって、中身がでてきちゃったんだって」
「うわー、それって……。あの、生の砂肝? 焼き鳥のとかじゃなくて?」
「私ね、この話するときのね、男の人の顔見るのが好きなんだよね。なんとも言えない顔するんだよね、みんな」
「うわー、だって……、うわー、いたたたた、痛い、痛い」