八木ロックフェス


10月10日の八木ロックフェスはとにかく空が広くてのびのびと気持ちがよかった。風がちょっと強くて、うんと気をつけて集中していないと風に気を取られて歌詞とかコードとかを忘れそうになる、というのが新しい発見だった、あんまし野外で演奏したことがなかったから。それから風のせいなのか、ギターの音をしぼりすぎたせいなのか、自分の弾くギターの音があんまり聴こえなくてちょっとあせった。ベースの音がよく聴こえたから、歌の音程をおっぱずす、ということはあまりなかったけど、今自分が弾いている音が実は半音ずれていたりしないだろうか、となんとなく落ちつかない気持ちがずっとあった。アンプの音を上げるなり、「ギターの音の返しをもっと下さい」とかPAの人に言うなりすれば良かったのにな、俺は。
「カツ丼三杯」は僕が歌詞を書いてキャプテンが曲をつけた歌で、これがけっこう人気でライブをするたびに「カツ丼の歌よかったですよ」と言われることになっていて、八木ロックでも演奏のあとで屋台に生ビールを買いに行くとビール屋さんが「カツ丼三杯、カツ丼三杯、うはははは」と言って褒めてくれた。
この日は娘が始めて僕がバンドで歌う様子を見に来てくれたのだけど、僕はなんとなく照れくさくて歌いながら娘の方を見ることができない。娘を見たときに娘がいやそうにしていたら僕はがっかりして歌詞とかコードとかを忘れちゃうんじゃないか、などと思って歌っているときは正面に座ってお弁当を食べている家族連れを見るか目をつぶるかしていたのだった。が、舞台上から娘を見る機会なんてそんなにたくさんあるわけじゃないんだから、この機会に娘がどんな顔をして僕を見ているのかをちゃんと見ておけばよかったな、俺は。娘と一緒に演奏を聴いていた妻に訊くと、娘は前半の僕が作曲した歌のときは下を向いて草をむしっていたりしたんだけど、「ハーバーレス」以降のキャプテンが作曲した曲になると、演奏する僕らの方を見てちょっとノッてるふうな様子を見せていた、ということだった。
打ち上げではスタッフをしていた八木の人たちとちょっとだけしか話をしなかったのが残念だ、他の出演者の人たちとはちょこちょこ話ができたのだが。スタッフの人たちが固まってしゃべっているところに入って行くのって、「ねえねえ、俺らの演奏よかったっしょ? 褒めて褒めて」と言っているみたいで恥ずかしいな、などと自意識過剰ぎみな思考が働いて尻込みしちゃったんだけど、そうじゃなくて、「今日はいろいろ運営のお仕事をして下さってありがとうございました」という感謝の気持ちを伝えよう、という姿勢でスタッフの輪に入っていけばいいんだろうな。次にこういう機会があったらそういうふうにしゃべりに行こうっと。
八木っていうのは大きな川がゆっくり流れていて、駅から川に行くまでの商店街にはあんまり車も通っていなくてのんびりした空気が流れている。スタッフの人たちを見ていると、みんな地元が好きで地元の人のつながりが緊密な町なんだなあ、という感じがした。
3年前に僕は「yoji & his ghost band」のベーシストとしてこのロックフェスに参加した、そのときに見た「WISS」というKISSのコピーバンドが「あれだけ思い切ってコピーをやりきっていると、見ていてすがすがしいなあ」と気持ちよかったのだが、今回のスタッフの人で落ちついた感じで指示をだしたりしていた50歳くらいのおじさんがWISSのボーカルの人だったと知って仰天した。そうか、こんなにも仕事のできる感じのダンディーなおじさんがあの白塗りのメイクで高い声を出して歌っていたのか、、、