娘はこのごろは朝食のパンを食べている途中で僕に『キン肉マン』を読んで、ちょっとだけ読んで、と頼んで来て、頼まれると僕は断れないので、『キン肉マン』をちょっと読むのだが、キン肉マンのパパがゴミ箱に入ってるとことか、アデランスの中野さんのカツラがとれるとこだとかで娘は大笑いして、もっと読んで、もっと読んで、と、そんなことをしていると保育園に行く時間がどんどん遅くなり、けっきょく僕は娘を保育園に送り届けたあとで職場まで自転車を立ち漕ぎすることになる。キン肉マンは僕は去年の11月から毎月一冊ずつ買うことにしている。ポッドキャストで『キン肉マン』に言及している番組がいくつかあり、世の中の多くの人は僕が思っている以上に『キン肉マン』に詳しいんだな、と思い僕も読みたくなったため。子供の頃に一応毎週日曜日にテレビでアニメを見ていたが、ちゃんとマンガを読んだことがなかった。今になって読むと80年代の空気がコマの中につまっている感じがして、ああ、僕が子供時代を過ごした80年代はこんなにのんきな時代だったんだなあ、と懐かしくなる。びっくりすると目が飛び出したり、八頭身だった人が怒られると急に三頭身に縮んだり、といった、『ドクター・スランプ』とか『ハイスクール! 奇面組』とかでよく見かけた表現が『キン肉マン』にもいっぱい出て来る、王貞治とかジャイアント馬場とかシルベスター・スタローンとかが、80年代当時の若い姿で描かれている。

キン肉マン 1 (ジャンプコミックス)

キン肉マン 1 (ジャンプコミックス)

二十一世紀生まれの若い娘は『キン肉マン』なんかに興味を示さないだろう、娘には『キン肉マン』よりもおもしろそうな絵本がいっぱいあるもの、と油断してそこらへんに転がしておいたのがまずかった、娘は『キン肉マン』の表紙の絵に強烈にひきつけられたみたいで、「これ読んで」ということになり、まあ、白黒のマンガなんて読んであげてもすぐに飽きるだろう、と読みきかせをすると思いのほかウケて、朝食のときも、寝る前も『キン肉マン』を読みたがるようになってしまった。
今では娘は『アンパンマン』よりも『キン肉マン』の方がくわしい。しかし保育園で「アデランスの中野さんが……」などという話をしても誰も分からないだろう、下手をすると先生にだって通じないかもしれない、ちょっとズレた子供のなってしまうのではないか、と少し心配