それにしてもわっしょいハウスはすごかったなあ

こないだのわっしょいハウスの演劇は、失踪したサクラバくんについての話だった。
演劇を観るときには、とりあえず、この話はどういう方向に進むのかしらとか、作品全体のなかでこの場面はどういう役割をしてるのかなとか、そんなことをぼんやりと思いながら見ている。わっしょいハウスのこないだの作品は、そうやって観ている観客をどんどんはぐらかして進んで行く演劇だったのだと思う。
はじめのうちは、この作品は「失踪したサクラバくんはどこへいったのか?」というナゾを推進力にして進んで行く演劇なのだろうな、というふうにぼんやりと思いながら見ている。で、そうやって見ていると、サクラバくんの大学の同級生という人がでてきて、サクラバくんの悩みの話なんかが出て、だから僕は「サクラバくんの悩みなんかもこの話で重要なのかもしれない」と思って見ているんだけど、そのうちにいつのまにか話が脱線して、ドラゴンクエストの呪文をどう発音していたか、という話題に変わっちゃって、結局サクラバくんの悩みとかにはその後言及されないまま演劇は進んで行く。
しかも、失踪したサクラバくんについてしゃべっていた人たちが、「ところでその頃サクラバくんは・・・」みたいなことをいって急に視点がサクラバくんにかわる。そうすると、僕はサクラバくんを探す人たちの話なのかと思って観ていたのに、急にカンタンに視点がサクラバくんに移動してしまうので、「あれ?」と、またはぐらかされたような気持ちになり、この演劇の見かたを考え直すことになる。
で、今度はサクラバくんが失踪中に経験したことの話なのかな、と思って見ていると、サクラバくんとセーラー服の女子高校生の場面の演技をしたあとで、「なんてことはなかったんですけどね」みたいなことを俳優が言う。サクラバくんが経験したことを俳優が再現しているのかと思って僕は見ていたのに、実はその場面はサクラバくんが経験しなかったことの再現(?)だったのだ! しかもそのあと、「それはむずかしい」というのが口癖のお父さんとその家族のやりとりがあったあとで、「でも、サクラバくんにはこの会話は聞こえなかったんだよね」と俳優が言う。「じゃあサクラバくんに聞こえなかった会話のことをしゃべっているお前らは誰なんだ? そもそもそんなのサクラバくんと全然関係ないじゃないか!」みたいに、僕の頭はまた宙づりになる。
こないだのわっしょいハウスの演劇は、そうやって観客を宙づりにしたまま最後までつれていってしまうという演劇だったのじゃないかしら。そんで、その宙づり感がたまらなくスリリングというか、いまだかつて体験しなかったおもしろさで、そのおもしろさに僕はたまげてしまったのだと思う。
いや、しかしあの演劇のおもしろさは宙づり感だけじゃなくて、なんかもっといろんなおもしろさがごた混ぜになってぶっこまれていたんだけど、そのすべてを僕は言葉にすることができない。
クロイさんという登場人物もおもしろかったなあ。クロイさんという人は幽霊が見える設定になっていると、唐突に俳優が言うんだけど、その設定というのは誰が設定したのかよくわからない。クロイさんもそのあとで「私が幽霊が見える設定になってるからああいうものが見えたのかもしれない」みたいなことを言う。クロイさんは「私には幽霊が見えるから」とは言わずに「幽霊が見える設定になってるから」というのだ。もう、「ん? ん?」と、観ているこちらの頭はこんがらがってしまうのだけれども、そのこんがらがり具合が演劇を見ることのじゃまにはならず、むしろおもしろさになってしまっている、というのにも驚かされる。

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さて、今日は東京からやって来た女の子とデートをした。御所をぶらぶらして、それからてんぷらを食べた。京都駅にはもうクリスマス・ツリーが立っていた。