動物は次のごとく分けられる

 『美濃』に『シナの百科事典』というものが出て来る。『シナの百科事典』は「ある外国の作家の評論の中に出て来る」ものであるらしく、この百科事典の「動物」の項からの引用が『美濃』には書かれているのだけれども、これがどうも変だ。『シナの百科事典』には次のように書かれているという。
「動物は次のごとく分けられる。〈a〉皇帝に属するもの、〈b〉香の匂いを放つもの、〈c〉飼いならされたもの、〈d〉乳呑み豚、〈e〉人形、〈f〉お話に出てくるもの、〈g〉放し飼いの犬、〈h〉この分類自体に含まれているもの、〈i〉気違いのように騒ぐもの、〈j〉かぞえきれぬもの、〈k〉ラクダの毛のごく細の毛筆で描かれたもの、〈l〉その他、〈m〉いましがた壷をこわしたもの、〈n〉とおくから蠅のように見えるもの。」
あんまり脈略がなさすぎて、もう全然わけが分からない。動物の分類のはずなのに人形が入っているなんていうのは全然じょのくちで、「お話に出てくるもの」というのはそれは動物じゃなくてお話に出て来るものでしょうと言いたくなるし、「放し飼いの犬」といったかなり具体的なものがあるかと思えば「かぞえきれぬもの」というずいぶん漠然としたものもあり、〈k〉がまたすごくて「ラクダの毛のごく細の毛筆で描かれたもの」というのは、それは動物じゃなくて絵なのじゃないかと僕は思う。〈l〉の「その他」で終わらせずに〈m〉で「いましがた壷をこわしたもの」をあげているのは、この百科事典を書いていた中国の人が、今まさにこの項目を書き終わるぞというタイミングで犬かなにかが大事な壷を壊してしまい、腹が立った勢いでつけたしてしまったように見える。そのあとで〈n〉「とおくから蠅のように見えるもの」を書いているけれども、これはもう全然想像がつかない。