ママ、無理や

 鴨川で飛び石を渡る親子を見た時からなんとなく大人と子どもの組み合わせが気になるようになっているのか、親と子とか老人と孫とかが道を歩いていたりするとふと気になって見てしまう。そんな日々の中で自転車をこいでいると、ふたりで一緒に鳩を見ている老人と赤ん坊に道ばたで出会い、パッと見たそのふたりの様子がどうしてだか印象深くて気になった。ふたりの足下には濃い灰色に紫色を混ぜたような、群青色を混ぜたような色の鳩が一羽いて、何かしきりについばんでいた。老人は足下の鳩を見おろしていて、その老人の胸にお腹をくっつけるようにして抱かれている赤ん坊は少し振り向くようなかっこうでやっぱり鳩を見おろしている。ふたりはむしむしと暑いひなたの歩道で体をくっつけてじっと鳩を見ていた。自転車で追い越しながら一瞬だけ見たその二人の姿が、なんだか忘れがたく印象に残った。
 交差点を自転車で渡る母と交差点を渡り損ねる男の子を見た。歩行者用の信号はもう赤に変わっているのだけど、自動車用の信号はまだ青で、お母さんは「それ、急げ」という感じでびゅーっと自転車を飛ばして交差点を渡っていった。そのうしろから子ども用の小さな自転車で着いて来ていた男の子は、
「ママ、無理や」
とひとこと言うとブレーキをかけて横断歩道の前で停まってしまい、それからすぐに信号が変わった。お母さんには「ママ、無理や」という言葉が聴こえたはずなのにうしろも振り向かずどんどん先に行ってしまい、50メートルほど先に行ったところでやっと止まり、うしろをふりむいて息子が交差点を渡って来るのを待っている。