桑原武夫をみた

土曜日、Tさんの伝記作成のための聞き取りに行く。
「そのころ近所に奥田はんちゅうおばさんがおりまして、奥田とめさんゆうたかいな。もともと奥田さんは遊郭にいはった人で、その婿さんちゅうのが鳶職の人で、よっぽど気にいったんでしょう、身うけしはって。あの時分はね、そうゆうとこに身売りする時代でしたんや。奥田さんは子なしでしてね、どこか出かけるときはわたしをようあっちこっち連れてってくれたんですよ。「やっちゃん、やっちゃん」ちゅうてね。あっちこっち、出かけるときに必ずわたしをつれていってくれはってね。ものを食べに行ったら、「やっちゃんはかなわんわ、なんやらほしいちゅうさかい買うてあてもうたら、隣の人が他のもん食べてはったら、あれ欲しいゆうて」。うちは両親とも仕事してるさかい、奥田さんは子なしやし、せやからね、ようつれてってもらって、ごちそうよばれて。わたしが小学校あがる年に、奥田さんが養子をもらわはって。奥田しょうたろうさんゆう人でね、おなじ学校へ行ってたんやけど、ふたつほど下やったかいな。よういっしょに遊んでました。そのおばさんももう早うに亡くなられました。養子さんも戦後闇市でもの売ってはったんやけど、肺病でね、亡くなられましてね、あれはかわいそうでした、せっかく養子さんもらわはったんやけど。」というようなお話をうかがう。

日曜日、神社でライブ演奏を聴き、右京区の図書館に行く。右京の図書館には桑原武夫さんのイスと机が展示してあり、遺品もいくつかガラスケースに入って置いてある。ぼくが感動のあまり半泣きになりながら遺品をみていると、おっちゃんがひとりやってきて、桑原大先生のイスにすわり、机に新聞を広げて読み始める。おっちゃんはどこかから柿の種をとりだして、ぼりぼり食べながら新聞を読んでいる。図書館は飲食禁止である。うなりとばしてやりたいほどの怒りを覚えるが、しばらくおっちゃんをみているうちに、桑原先生もあのように柿の種をたべながら新聞を読んだのかしらとか思い、そうするとそのおっさんもどことなく桑原さんに似ているような気さえし始め、これは桑原さんがぼくのために生前の姿を再現するというパフォーマンスをしてださっているのだ、とか思うようになり、それでまた感動して泣きそうになる。

月曜日、大学で自転車を盗まれる。がっかりしながらチョコレート・パフェを食べる。離れた場所にある校舎の自転車置き場で自転車みつかる。どろぼうは勝手にサドルの位置を変え、勝手に鍵をつけている。ずうずうしい。むかつく。どろぼうは死んでほしいと思う。こころからそう思う。鍵は警備員さんにちょんぎってもらう。この日、自転車屋さんであたらしい鍵を買う。ヴィブレで父親の誕生日プレゼントを買う。買い物をしているときに自転車の鍵をおとし、泣きながら探す。なんとか見つけることができ、エビス・ビールを飲む。

火曜日、Tさんの伝記作成のための聞き取り。この日、京都新聞社のかたが聞き取りの様子の取材にみえる。Tさんにネクタイピンをもらう。父親の誕生日プレゼントの発送をしようと思うが、時間がなくてできず。