大家さんの話

家賃を払いに行くといつも大家さんの話が長くて、それを適当なところで切り上げて帰って来るのが毎回大変なのだけれども、今日は「立ってるのもしんどいやろ」という言葉についつい玄関で座ってしまい、そうするとなかなか立ち上がることができず、1時間ほども大家さんの話を聞くはめになってしまった。大家さんは81歳のおばあさんである。おもしろい話もときどき出るのだけれども、大半はグチとかで、きいているうちに大家さんは同じ話を二度したりして、しかもお金だけ受け取ってそれを帳面につけずにずっとしゃべっているので、「ぼくが今払ったお金はうやむやになっちゃったりしないのだろうか」と心配になる。大家さんにきいた話は次のようなもの。
孫の女の子の就職が農協に決まったのは死んだおじいさんのコネだ。
孫の男の子の通っている高校はダメな高校だ。
アパートは今50歳の息子が幼稚園に通っているころに建てた。
その頃アパートには新婚さんばかりが住んでいた。
その頃の家賃は7000円だった。
なぜ猫が嫌いになったか。
税金の話。
水道局の話。
畑の話。
歳をとるとすぐちびるので困る。
金閣寺が燃えたときに石川県からきた大工さんの話。
X号室のおっさんがフェンスに布団を干すのでフェンスが歪んでしまった。
Y号室のおっさんは部屋で額縁をつくって商売をしている。
Z号室のおっさんは家賃を半年ためてついに夜逃げしてしまった。
など。
50年前に新婚さんが住んでいたこのアパートは、今では貧乏なおっさんのたまり場のようになっているのだな。