戦後の余生


死ぬ間際にずっと満州の夢をみつづけていたという祖父は、夢の中で二十歳の頃をもう一度生きていたのではないか。
眠り続ける祖父のそばで祖母や母やおばたちが、祖父が満州のねごとをいうのを、ずっときいていた。
軍隊で飼っていたフクロウの夢をみて、360度首が回るというそのフクロウに祖父は「おまえはかわいいな」と、寝言で呼びかけていたのだという。また、
「だれだれ、おまえは国へ帰りなさい」と、部下に向かって呼びかけたりもしていたという。
ドラえもんの秘密道具にタマシイムマシンというのがあって、これはタマシイだけが昔に戻ってかつての自分を生き直す、という道具なんだけど、祖父の夢はまるでこのタマシイムマシンだ。
六十年前、七十年前のことを、あいてに呼びかけるほどはっきりと思い起こすことができるというのだから、人間の記憶はすごい。忘れたと思っても脳みそのどこかにそれはずっと残っているのか。
また、死ぬ前に二十歳のころを強烈に思い出していた祖父の、戦後の人生とは何だったのか、と思う。それはすべて余生だったということなのか?