noise-poitrine2012-08-24

飲みこみがたいバリウムを飲みこんでいるとき、ふと深沢七郎が頭に浮かんだ。鮮やかな赤のカーディガンを着て、田んぼのあぜに座り、ギターを弾いている。
死ぬときはガンで死にたい、と深沢七郎は言った。なんでわざわざガンなんかで死にたいのか。それは深沢七郎のお母さんがガンで死んだからだ。母親が苦しんだ同じ苦しみを味わいながら死ぬことが深沢七郎にとっては苦しみではなく喜びだった。

飲みこみがたいバリウムを飲みこむ苦しみも僕がそれを飲みこむ以前にだれかが飲みこんだ苦しみだったはずだ。たとえば僕の父とか。父は会社の健康診断で何度もバリウムを飲んで来た。僕は父も飲みこんだというこのバリウムを飲みこむことで、父が飲みこんだのと同じ飲みこみがたさを飲みこむことができる。こんなものは飲みこみたくない! と思えば思うほど、同じように思っていただろう若い頃の父を、そののど仏の上下する動きを、そのおなかに溜まるもったりと重たい泥を、僕は自分のからだに再現することができる! そんなことを考えてバリウムを飲みこんだ。

次回健康診断を受けるときはバリウムじゃなくて胃カメラを飲んだ方がいいよ、と病院の人は言っていた。放射線を浴びなくてすむし、なにより直接見た方が胃の具合も良くわかるし。

視力がやけに良くなっていてびっくりする。年々目が良くなっていくみたいだ。

あいかわらず体重が少ない。去年あたりからは50キロを切るようになった。思えば高校のときには55キロあったはず。ああ、あの頃の体重に戻りたい。

体脂肪が8.5パーセントとかで、病院の人にぷっと笑われた。帰って来て妻に報告すると「アスリートなみね」と、やっぱりぶっと笑われた。


ところでこれは下仁田のどこかの家の窓にあった絵。僕が小学校に通っていた80年代には、まだまだこういう70年代風の絵がそこここにちらほら残っていた気がする。下仁田にはこんな絵が二十一世紀の今でも残っていて、それを見た僕はなんだか子ども時代に戻って来たような気がしてとても安心した。