病気じゃなければステーキを食べます

 こないだは熱のせいで頭がぼーっとしていて、とんでもないことを書いてしまった。私の家では洗濯ものがたたまれずに山になっている、などとありもしない嘘を書いたが、そんなことはこれまでに一度だってなかったのだ。いや、一度もない、というのが言い過ぎならば、せいぜい年に一度、いや、月に一度あるかないかだ。お母さん、あなたは息子の家がさもぐちゃぐちゃに散らかっているかのように想像してしまったかもしれません。が、本当はきちんとかたづいていて、あなたの孫がはいはいの途中でみつけたゴミを口に持って行く、そんなことはありえないことなのです。いや、人間のすることなのだから、ときどきは、なにかの間違いでなにかゴミのようなものが落ちていることもたまにはあるかもしれない。しかし私たちがちゃんとみはっていて、あなたの孫がたとえば畳の上に落ちている輪ゴムか何かを手に取ろうものならば、すかさず飛んで行ってはっしと手をおさえ、輪ゴムを取り上げ、娘に食べさせるくらいならばと自分で食べてしまう、それほどの覚悟で日々育児に取り組んでいるのです。

 病院で抗生物質を点滴してもらうと、看護婦は針が血管に刺さらないわね、といいならがも、うかうかと点滴の栓を開いちゃうのだ。すると血管じゃないところに点滴が流れ込み、痛い。点滴が初めてだった私は点滴とはこんなにも痛いものなのだな、俺の娘はこの世に生まれてきた当日にこんなにも痛い思いをしたのか(娘は生まれてすぐに集中治療室に入りしばらく点滴をしてもらっていた)、娘が受けた痛みだ、俺だって同じ痛みを受けなくて良いわけがないのだ、とちょっとがまんしていたのだけど、さすがに痛みがひどいので「いてててて」と口に出してみると、看護婦さんはやっぱり血管に入ってなかったのね、思った通りだわ、と納得してうんうんうなずき、もう一度別の血管に針を刺し直すのだった。診察とレントゲンと点滴と薬とで3500円。いつも思うのだけど、3500円とかあったら、こんな薬とかじゃなくて分厚いステーキが食べられたよなー、と思う。病気になると損をする。病気にならないでステーキを食べたい。診察の結果は異常なし。ただの夏風邪でしょう、とのこと。