モーモーが一匹

 夜、娘は眠るまえに絵本を読んでもらうことになっている。読んでほしい本を本棚から一冊選び、母親に渡し、母親がそれをふとんで読む。昨日と今日、娘が選んだのはピンクフロイドの『原子心母』のレコードのジャケットだった。娘の中では今は牛がブームになっているらしく、牛の出て来る絵本などを「モーモ、モーモ」といって何度も読むようにせがんでいたのだったが、おとといくらいに僕が牛の大きく写ったこのレコードジャケットを見せると、この牛の立派な立ち姿にえらく感心したふうで、そうすると寝る前に『原子心母』を見ないとどうもすっきりと眠れなくなっちゃたようなのだ。

原子心母

原子心母

 で、この『原子心母』を妻はパタパタとひっくり返しながら、「あるところに、モーモーの三兄弟がいました。一番大きなモーモーは……」と即興で牛の話を作りながら読み聞かせをする。やがて大勢のモーモーが集まって来る。「モーモーが一匹、モーモーが二匹、モーモーが……」それで今日はモーモーが91匹まで集まって来たところで娘は眠ってしまった。

 妻が図書館から借りて来た『あしたから出版社』をおもしろいから読んでみて、というので僕も読んでみたらおもしろい。就職できなかったから一人で出版社をはじめちゃったとか書いていて、そうか、夏葉社はこういう人がやっているのか、いままでは本を買うとき著者ばっかり気にしていたけど、出版社だって人間がやっている仕事で、営業をしたり、本を梱包して送ったり、著者に手紙を書いたりとかしてるんだよな、と、今まで見えていなかったことがちょっと見えた感じでおもしろい。僕はつねづね、買い物をすることはその品物とかそれをつくった人とかに一票投票することだ、あなたの品物を支持しますよ、と意思表明することだ、ということを考えながら買い物をする派なんだけど(だから群馬の両親が娘におもちゃを買ってくれる、というときは群馬の木でつくった木のおもちゃをください、とお願いしたりしてるんだけど)、この本を読むと夏葉社に一票投票したくなる。

あしたから出版社 (就職しないで生きるには21)

あしたから出版社 (就職しないで生きるには21)