東京、熱海

noise-poitrine2015-02-23

 土曜日、東京でライブ。今回はJ子ちゃんも車に同乗。7、8時間かけて東京まで。東京につくと山手通りを北上したのだけど、やっぱし東京はアップダウンがはげしいというか、山あり谷ありでおもしろい。僕はここ何年かずっと東京の地理に興味をもっていて、ちょこちょこ本を読んだりしてるんだけど、実際に現地に行ってみると「ああ、こんなにも山だったのか」と自分のからだで体験する感じで、車の助手席に乗ってるだけでなんか興奮する。
 リハーサルのあと、ライブハウスの隣の中華料理屋で食事。日本語があまり通じない中国人の店員さん。「(紹興酒に入れる)ザラメください」といったらグラスを持って来たり、灰皿を持って来たり。だめだこりゃ、とあきらめていたら十分くらいたってザラメを持って来てくれた。この人は、歩くたびにイスに脚をぶつけたりテーブルの上のメニューをたおしたりして要領が悪い。にこにこと愛想はいいんだけど。本場中国の味ということなのか、料理はだいぶおいしくて、腹一杯たべて紹興酒もけっこう飲んで、いい具合によっぱらってからライブ。東京の友達が何人か聴きに来てくれた。1年ぶりとか2年ぶりとかで会う人たち。いや、ひょっとすると3年ぶりくらいになったりするのか。こないだの甘もの会の公演が3年前だったし。
 タイバンはレディーメイド・レベルがとてもかっこ良かった。女の人がはもる声が良くて、ずっと聴いていたい、という感じ。ボーカルの男の人が歌いながらバシバシとスネアだのシンバルだのを叩くそのリズムも気持ち良くて、これはすごい! とCDーRを買った。家に帰ってCDーRを聴いたら「あれ? こんなだったっけ?」とちょっと拍子抜けしちゃったんだけど、やっぱしライブで、重低音がドコドコいってるのを、体をゆすりながら聴くのがいいのだろうな、こういうのは。ボーカルの人が曲の合間にしゃべるのが、淀川定次のしゃべり方に似ていて、なんか安心した。なんで安心したんだろうか。
 この日はK夫妻の家に泊まらせてもらう。ビールを飲みながら朝の四時くらいまでしゃべる。いろいろ食べさせてもらったんだけど、中でも印象深いのがなまこ。ふたりとも海の近くの出身だから普通にナマコを捕って食べていたらしい。むにむにと奥歯で噛み締める食感が忘れ難い。吉田健一は奥歯は脳みそに近いから、奥歯でこりこりと固いものを噛むとそれが直接脳に響いて気持ち良いんだ、みたいなことをどこかに書いていたけど、なまこはかなり気持ち良かった。
 日曜日は東京マラソンだったので、マラソンを避けるために横浜に集合、ということになる。僕は初めて横浜に行った。けど、横浜で見たものと言えば青森から来たゆるキャラの「いくべえ」くらい。おみやげに、駅で崎陽軒のシュウマイを買った。J子ちゃんが言うには、シュウマイの箱に入ってるしょうゆさしに金色のがあるらしい。で、お店の人にきいてみたら、金のやつはめったに出ないとのこと。次に珍しいのが赤い線で絵がかいてあるしょうゆ差し。一番多いのが青い線で絵がかいてあるやつ。うちに帰って開けてみたら赤い線で絵がかいてあった。
 その後、みんなで熱海により、秘宝館を見学する。秘宝館は山の上にある。ロープウェーにぎゅうぎゅうと乗り込んで山の上の秘宝館をめざす。ごとごととのぼっていくうちにだんだん景色が開けて来る。すこし雨がふっていて景色はあまり良く見えなかったんだけど、それでも熱海の地形が良くわかる。熱海は平らなところがなくて、山の斜面に白いホテルとかが並んでいた。もやもやと雨がふっていたせいか、熱海は白い街という印象。
 秘宝館に行く前は、漠然と、ホコリをかぶった蝋人形が並んでいるくらいの、パッとしないさびれたところなのだろうと思っていたのだけれど、行ってみたら思ってた以上におもしろいところだったし、セクシーなものもいっぱい見れた。それに人がいっぱい来ていたのがびっくりした。こんなに人気のあるところだったのか、秘宝館は。
 イスに座ると、正面に鏡がある。鏡なんだけど、そこに映像が映るようになっていて、おっぱいを丸出しにした女の人がそこに映る。そんで、「今日はどんな髪型にしますか?」みたいなことを言って、イスに座っている僕の頭にアフロヘアーのカツラをかぶせて、似合ってるとかなんとか言ってくれる。こんなのは、ちょっとドキドキしちゃうんだけど、でも、バンドのメンバーとか知らない赤の他人とかが周りで見ているのに鼻息を荒くするわけにもいかないから、「なんだこれー」とかいいながらだははははと笑うしかない。となりでイスに座ってるおじさんとかおばさんとかも、だははははと笑っている。もう、なにを見ても、だははははと笑うしかなくて、それかにやにやするしかなくて、そうすると、エッチなものというのが、いやらしい、恥ずかしい、隠すべきものであるというよりも、なにかみんなで笑いながら見るものみたいな感じになって、「あ、こういう感じっていいな」と思う。
 京都の保育園の園児たちの絵を集めた展示会をこないだ見に行ったんだけど、そのとき感じたのが、ひとりで見るのと大勢の赤の他人と一緒に見るのでは絵の見かたが違ってくる気がする、ということで、他人と一緒に見るとその他人がその絵をどうみているのかな、ということを何となく想像しながら、他人の目になって絵を見たりする。この大きな星は俺にはおもしろく見えるけど、あのおばさんが見ても同じようにおもしろいのかな、とか思ったりする。
 それと同じような感じで、秘宝館で他人と一緒にエッチな展示をみるというのは、自分一人の眼でそれをみるのじゃなくて、となりにいるおじさんおばさんや、若いカップルの眼を借りて、その人たちの眼でそれをみるということになるのかな、とちょっと思った。個人の眼でみるのじゃなくて、集団の眼で見る、みたいな感じか。
 若いカップルがけっこういっぱいいて、わきあいあいと笑いながら展示をみているんだけど、おみくじをひいたりして、
男「女性が上の方がうまくいくって書いてある」
女「ふふふ」
男「よかった、ギリ上だもんな、**のほうが」
女「え、上って、ふふふ」
男「何座だっけ? おれ山羊座だから……」
女「ふふふ」
男「え?」
女「ふふふ」
とか会話しているのを聞いていると、ああ、こうやって人類は繁栄してきたのだなあ。となんだか胸が熱くなる。
 熱海の駅前の坂を歩いて娘のお土産に海苔を買った。それにしても昔の人はよくこんな斜面に街をつくったものだなと思う。斜面というか、崖だったんじゃないか、昔は。熱海の歴史を勉強したくなる。

 これは熱海で見た植物ワイパー。口からべろべろーと植物が出ている。