おじちゃんの登場

「おじちゃん」というキャラが我が家に登場したのはひと月ほど前のことだったか。どんなきっかけでおじちゃんが出て来たのか忘れてしまったが、そのとき僕は「おじちゃん」という人物を演じて娘と会話をしたのだった。ままごとか何かをしていたのかもしれない。キャプテンに教えてもらった「SION」という人の声をまねて、のどの奥からガラガラとかすれた声をだして「どれ、おじちゃんに見せてごらん。ほう、すごいじゃないか」などと娘としゃべったその翌日、僕と一緒にお風呂に入るのをいやがる娘に「じゃあ、おじちゃんと入るか」と声をかけると、娘は喜んで僕のあとについて来た。それから娘は折に触れて「おじちゃん、これ、かかのバイクだよ?」とか「おじちゃん、これ、**ちゃんの傘だよ?」とか僕の中のおじちゃんというキャラに向かって話しかけて来る。父親である僕がすでに知っていることでも、「おじちゃん」という人はそれを知らないことになっているので、娘はいちいちそれを「おじちゃん」に教えてくれる。そのたびに僕はSIONの声をまねて「おお、これが**ちゃんのかかのバイクなのか」とか、「**ちゃん、いい傘持ってるじゃないか」とか答えている。だんだん「とと」というキャラクターは消えて来ていて、最近はもっぱら「おじちゃん」がこの家で娘と会話をしている。妻は、「知らないおじさんと一緒にごはんを食べているようだ」といって気味悪がっている。いや、僕は別に二重人格とか、そういうわけじゃないんだ。ただ、「おじちゃん」という人物を演じていただけだったのに、今ではもう僕の代りに「おじちゃん」という人が妻と娘と食卓を囲み、娘と一緒に風呂に入り、娘と一緒に『フック・ルック・ボー(NHKの『フック・ブック・ロー』のこと。キャプテンに教えてもらったこの番組を録画して娘に見せたら娘はすっかり気に入ってしまい、毎日保育園から帰って来ると録画してある『フック・ルック・ボー』を見るのがこのごろ習慣になりつつある)』を見ている。いや、でも、娘だって僕が「おじちゃん」ではないことはちゃんとわきまえているんだ。ととが半分ふざけてやってることなんだってわかっている。その証拠に、家の外では娘は「おじちゃん」に話しかけるようなことをしない。外に出たらある程度はまじめな顔をしないと恥ずかしい、というようなことはつねに感じている娘なんだ。

9月の終わりくらいだったかに、「レインボー・ヒル」という野外ライブを三人で聴きに行った。毎年秋にやってるこのライブに行ったのはこれで三回目くらい。娘を連れて行ったのは今回が初めて。ここで「キセル」というバンドを初めて聴いたのだったが、これがかなり気に入ってしまい、CDを買って来て毎日聴いている。そうか、こういうふうに歌ったらモテモテになるのかもしれないぞ。こんどのライブでは「キセル」の声をまねして歌ってみようっと。