かりんくん

 僕は「ご自由にお持ちください」と書いたカゴに入れられていたかりんを、娘とふたりで自転車に乗って買い物から帰って来る途中で見つけたのはもうひと月以上も前だったが、かりんはりんごのように皮をむいてそのまま食べるというわけにもいかず、かといってかりん酒にするとかジャムにするとかにはひとつきりでは少ないので、とくに何かに使うということもなく、しばらくは娘に「いいにおいがするでしょう」などといっておもちゃ変わりにさせていた。といっても2、3日もごろごろと転がして遊べばもう飽きてしまうので、それ以降はすっかりだれからも見向きもされず、台所の棚に放置していたのだったが、ふと思い立って風呂に入れてみたら風呂場がいい匂いになり、お湯に浮かんだかりんで娘は遊ぶ。かりんの表面についた傷が顔のように見える。
「僕、かりんくんです。こんにちは」
 人形劇のようにカリンの顔をあっちに向けたりこっちに向けたりして娘と会話をしてすっかり長風呂。