イギリス旅行30

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4月30日火曜日、晴れ。大聖堂にもお土産ショップがあって、お土産ショップは出口にあるからそこを通らないと外に出られないようになっていて、お土産を見れば娘はどんなに疲れていても元気が出る。何かいいおもちゃはないか、文房具も捨てがたい、アクセサリーも欲しい、と店内のあれこれを手にとって吟味するのだが、ここで娘が何を買ったのか、それとも何も買わなかったのかは忘れてしまった。妻が何を買ったのかも忘れちゃった。僕は本を三冊買った、どうせ日本で買うよりは安いはずだし、というか、こんなヨークシャーの歴史を書いた本なんて京都の丸善では手に入らないかもしれないし。窓のない大聖堂(ステンドグラスは山のようにあったけど、空が見える窓はなかった)から外に出ると五月直前の明るい光。太陽が出ていれば日なたは気持ちよく暖かい。やっぱりいい季節にイギリスにきたんだな、と実感する。初日のロンドンは冬かと思ったけど、晴れていればやっぱり春でこんなに気持ちがいいんだ。そろそろ2時でお腹もすいてきた、娘の機嫌が悪いのは空腹のせいもあるのかもしれない、ということで、昼食を食べるためにガイ・フォークス・インへ行く。ガイ・フォークスが生まれ育った家だという、ヨークにガイ・フォークスの家があるなんて知らなかった、というか、ガイ・フォークスって本当にいた人だったのか。ガイ・フォークスは高校の時に使ってた英語の辞書に「Guy Fawkes Day」というのが載ってて、そこに写真が二枚印刷してあるんだけど、ペラペラと辞書をめくってるとときどきこの写真が目に入る、写真にうつったガイ・フォークスの顔は真っ白ののっぺらぼうで、しかも隣の写真ではガイ・フォークスが燃やされてるし、なんか不気味なやつだな、と辞書でこの写真を見るたびに気になっていたんだった。ガイ・フォークスは1605年に起こった火薬陰謀事件の犯人だということだ。火薬陰謀事件というのがどんな事件だったのかは僕はよく知らないんだけど、この事件が起こった11月5日が近づいてくると、イギリスの子供たちはぼろきれでガイ・フォークスの等身大人形を作り、「ガイのために1ペニーください」と言いながら町じゅうこの人形を引きずって歩き、通行人から小銭を集めて、11月5日の当日には広場で焚き火を燃やしてガイ・フォークスの人形を火あぶりにするのだそうだ。花火も打ち上げるらしい。ドラマの「シャーロック」でジョンがあやうく火あぶりにされそうになった焚き火がガイ・フォークスの焚き火。そのガイ・フォークスの家がまだ残ってて、そこが旅館になってて一階では普通にごはんを食べたりビールを飲んだりできるのだという、この家が建てられたころ日本はまだ江戸時代にもなってなかった。これは是非とも行っておきたい、何度も辞書で見かけたあいつが生まれた家にあがれる、こんなチャンスはめったにあるもんじゃない。しかし娘はあからさまに嫌な顔をしている。薄暗く、変な匂いがする。いや、たぶんこの匂いはフィッシュ・アンド・チップスに使う白身魚の生臭い匂いなんじゃないかな、と僕は言ってみたけど、魚の匂いともちょっと違うような気もする。ビールとかアルコールがこぼれて床とかに染み込んだやつがすえた匂い、とかも混ざってるのかもしれない。英国のパブは先に席を確保してからカウンターで注文するんだったなたしか、とか思いつつ、どこに座ろうかと店内をウロウロする。午後の2時だからお昼どきももう過ぎてるし、お茶には早いしで、けっこうすいている。木の階段で二階にあがってみたら二階はホテルの部屋ばっかりみたいだったので「あ、ここは違った」とまた1階に降りてきて、道路に面した部屋をのぞいてみたり、奥の部屋をのぞいてみたりキョロキョロしてると、ウェイターの人が(ここのウェイターは全員金髪の背の高いイケメンだった)「3人ですか、いま席を用意しますんで」みたいなことを言って、奥の部屋に案内される。ずいぶん座り心地の悪い椅子だ。かたい木の箱に腰をかけてるみたいな座り心地だし、それに床が反ってるというか傾いてるというか、斜めになってて不安定。僕らの席は窓際で窓の向こうは裏庭になってて、店内はガラガラなのに裏庭の席は満席っぽい。イギリス人は晴れた日を1日も無駄にしない。それに比べて店内は暗く、壁は全体的に黒く、大きめのくもりかけの鏡が不気味だし、空気も悪い。
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