イギリス旅行32

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4月30日火曜日、晴れ。じゃあこの紙ナプキンで包んで持って帰ってもいいかい? と尋ねると、ウェイターの人はもちろん、と答えて、なんならもっとナプキンを使ってよ、と新しい紙ナプキンを3、4枚出してくれた。サンキューと言って、チーズパンを紙で包んで、タッチ決済で支払いをしてガイ・フォークス・インを出る。おもてから建物の写真をとっていたら通りすがりの観光客が、ああ、写真をとってるな、この建物は歴史がある建物なんだぜ、あんた、知ってるか? なんて声をかけつつ通り過ぎて行く、そこらへんにいる外国人に気軽に声をかけることができる、というのがタメ口の国イギリスならではだな、と思う。じゃあ、城壁の上を歩いてホテルに戻ろうか、ということになって、石でできた門に向かって歩いて行くと、門の近くにリトル・アップル・ブックショップという本屋さんがあり、ここのショーウィンドウが見てるだけでウキウキしてくるような楽しいショーウィンドウで、ビートルズ関連の本とか、不思議の国のアリスのトートバッグとか、あとは何があったか忘れちゃったけどいろんな面白そうな本がディスプレイされてて、思わず入っちゃう。中は狭いんだけど、いい本ばっかり選んで並べてるみたいな感じがする、もちろんイギリスで出てる本で日本語に翻訳されてるのなんてごく一部なんだから、ほとんどの本が日本人であるところの僕が知らない本で、だからいい本ばっかり並べてるな、とかは分かんないんだけど、でもなんとなく表紙の感じで良さそうな感じが伝わってくる。イギリスのペーパーバックの表紙って、どうしてこんなに綺麗で面白そうで魅力的なんかな、あれもこれも読みたくなる、読めなくても買いたくなる。ドラマの「シャーロック」を漫画にしたやつが置いてあって、娘が立ち読みしてみる。のを後ろからのぞいて見たら、吹き出しの中は英語なんだけど、効果音みたいなのがカタカナで書いてある。「ザー」とか「ギギギギ」とかそういうやつが。イギリスの漫画界ではカタカナが流行ってるのかな? ここで僕はペーパーバックを一冊買ってみた。日本語に翻訳されてるのか分かんないけど、「ロッティーブルックスの最高に恥ずかしい生活」という、中学生になる女の子の日記というていで書かれた児童書。そんで城壁にあがって歩いたんだけど、この城壁は中世の頃はヨークのぐるりを全部囲んでいたのかどうかわからないけど、いまでは所々で切れていて、だから城壁の上だけを歩いてヨークを一周するわけには行かず、ホテルがある方向に向かうためにはリトル・アップル書店からちょっと離れたところまで行かないといけなくて、一度のぼりかけた城壁をまた下りたりして、車が通る道を渡ったりして、なんとかホテル方面に向かう城壁にたどり着き、スロープみたいになってるところを上っていくと娘のテンションも上がってきて、もう、鼻歌なんて歌ってご機嫌で、先頭をどんどん歩いていく。娘はこういうアスレチック風というか迷路風というか、ちょっとした冒険っぽい気分になれるところを歩くのが好きなんだ。何年か前に養老天命反転地に行ったときも、あのぐるりを取り囲む城壁みたいなところを大人の先に立ってぐんぐん歩いて行ったのを思い出す。城壁の石にはところどころ指くらいの大きさの穴があいていて、きっとこの穴は昔の人が敵と戦ってた時に飛んできた矢が当たってできた穴だね、などと話して中世の様子を想像してみるが、あまりにも天気が良くてうららかで平和な日なものだから、この場所で殺し合いが行われたなんてのがうまく想像できないが、それにしてもこんなにたくさんの石をどこから運んできてどうやって積み重ねて行ったのか、これを作るのに何年くらいかかるものなのか? そんなのもこの町のどこかのミュージアムに行けば勉強できるんだろうけど、しかし僕らはそんなにじっくりと時間をかけてヨークを観光できないんだから、今日はもうホテルに帰るのだけを目指して歩くんだ。歩いて歩いて、そろそろ石垣からの眺めにも飽きてきて、クリフォーズ・タワーが見える南の方までやってくると、城壁から下の道に下りる直前に城壁にくっつくようにして丘みたいなのがあってそこに白い花がいっぱい咲いていて、白人一家がそこらへんにいるからニコニコしながら「ハロー」とあいさつしてると、この一家の息子が白い花の咲く丘からぴょんぴょんと走りながらこっちにやって来て、それがいかにも楽しそうというか、生き生きして見えて、だから当然うちの子もこの丘にのぼりたがったんだけど、ちょっと危なそうだったんで我慢してもらうことにする。娘は今日も歩きすぎて足が痛い。だけども未知の場所、面白そうな場所があれば行ってみたい、自分の体で体験してみたい。クリフォーズ・タワーを見つつ、ホテルへ向かう。僕は19歳のときにこのタワーにのぼった、と27年前の日記に書いてあるんだけど、今の僕にはその記憶がひとつもない。タワーの上はけっこう怖かった、みたいなことを書いてるんだけど、タワーの上でどんな風景を見たのか、その記憶がない。日記なんてものは書きっぱなしにしてると忘れちゃうもんなんだな。イギリスに行ったときの日記を一年に一回でも読み返していれば、僕は27年前の記憶を今日までずっと保持し続けることができたのだろうか? じゃあ、今つけてるこの日記はどうか? 30日書き続けてまだ旅行の半分くらいまでしか書けてないこんな長い日記を毎年読み返すなんてこと僕はしないだろう。じゃあ、やっぱり忘れちゃうのか。いや、忘れないようにとにかく詳しく書いておきたいんだ。しかし詳しく書こうとするとどうしても長くなってしまう。ああ、早く書き終わりたい。

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