イギリス旅行14

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 ビッグ・ベンは思ったよりも背が高かった。最近メンテナンスが終わったとこらしく、ピカピカと輝いて見える。ただの四角いつるりとした時計塔を建てるのではなく、むやみにゴテゴテと飾りたてているところに英国の余裕を感じる。まあ、俺たちの持つ経済やら建築やら文化やらの力を使えば、これくらいの時計塔は朝飯前ですよ、とでもいうような。あの要塞じみた巨大なハロッズも全面が彫刻で覆われていた(ように感じた)し、V&Aにしても自然史博物館にしても建物自体にこれでもか、これでもか、と装飾がほどこされていた(ように感じた)し、これはちょっとかなわないな、と思う。ビッグ・ベンの前で記念撮影。少し離れたところにウェスト・ミンスター寺院が見えているが、とてもあそこまで歩く気力はない、遠くから見るだけにする。ビッグ・ベンが四時のチャイムを鳴らすのを聞いて(あんなにクタクタになるまで歩いたのにまだ四時だったのか)、すぐそこにあったウェスト・ミンスターの駅から地下鉄に乗ることにする。本当はまた二階建てのバスでロンドンの町並みを見ながら帰りたいところだが、一刻も早くホテルに帰って横になりたいので地下鉄だ。ここの駅は、駅から道路にかけて屋根みたいなのがついていて、屋根を支える柱みたいなのが歩道と車道のさかい目のところに隙間を開けて何本か立っているのだけど、この柱はうっすらと記憶に残っている。27年前、僕は西の方からビッグ・ベンに向かって歩いて来て、途中で雨に降られ、この屋根の下で雨宿りをした、そのときにこの柱を見た記憶がある。こんなのがまだ残ってたんだなあ。駅の入り口のキヨスクで水とスプライトを買う。こんな安い買い物でももちろんカードが使える。が、イギリスでは公衆トイレが有料で、有料のトイレを使うには小銭が必要だという話なので、小銭を作るためにここで紙幣をくずすため現金を使う。10ポンドで支払い小銭を受け取るが、どの硬貨が何ペンスなのか一目ではわからないから、たとえお釣りがまちがっていたとしても分からない。こりゃあやっぱりカードで支払った方が確実だな、と思う。駅の奥に進んで行くと、あれは改札に入ったあとだったか、入る前だったか、おみやげ屋さんがあり、妻と娘が入って行く。とても疲れていたのだけれど、ショッピングとなるとちょっとだけ元気が戻ってくる。妻は絵はがきを選び、娘はキーホルダーを選ぶ。地下鉄の駅にあるそれほど広くないお店だけど、メッセージ・カードの充実具合のすごいことといったらない。棚が一列全部上から下までメッセージ・カード。イギリスには誕生日とかクリスマスとかにカードを贈り合う文化が根づいているのだろう。改札を通ろうとしたら娘の前で扉が閉まり、娘だけ改札の外に取り残されてしまい、パニックになる。イギリスでは十歳までの子供は地下鉄は無料だというので、妻の後ろにぴったりくっついて改札を通り抜けていたのだが、今回は弾かれてしまった。僕は別の改札からさっさと構内に入ってしまっていたんだったが、あれは良くなかった。娘の後ろについていて、妻と娘が無事に通り抜けるのを見届けてから自分も改札を通る、くらいの用心が必要だったな。どうしよう、どうしよう、とりあえず駅員さんを呼んでくるからはしっこで待っていなさい、いや、やっぱりこのままこの開かない改札口で待機していなさい、とか言ってまごまごしていると、さっと黒人の駅員さんがやって来て、自分のカードを使って改札を開き、娘を通してくれた。子連れはこっちの広い改札口を使うんだよ、とその駅員さんに教えられる。見ると、二人並んで通れる広さの改札口で、ベビーカーの人とかはそっちの改札口を使っている。イギリスでは当たり前のことも、我々はいちいちつっかえてしまい、まごつくハメになる。ホテルのあるアールズ・コート駅でも僕は入り口専用のゲートから出ようとして、後ろからやって来たお兄さんに、あっちから出るんだよ、と教えてもらう。こうやって失敗を繰り返して、少しずつロンドンになれていく。