イギリス旅行31

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4月30日火曜日、晴れ。娘はくらい顔をしてうつむき「で、何が食べられるの?」と怒ったような声で言っていて、僕らはメニューを見てもそこに書いてあるのがどんな食べ物だか良く分からなくて、メニューにスマートフォンをかざしてGoogle翻訳で日本語に変えてみたりしてもやっぱりそれがどんな食べ物かわからないけど、フィッシュ・アンド・チップスだけは分かるし、イギリスに来たらフィッシュ・アンド・チップスを飽きるほど食べよう、と思ってたんだからこれは注文することにするが、娘は「魚きらい!」と言うから、娘のためにはチーズのホットサンドを注文することにするけど、チーズはチーズでクセが強いかもしれず、そうなるともう娘の食べられそうなものはないから、これはヤバめな状況になるかもしれないぞ、と思うが他にどうしようもないからもうやぶれかぶれでこのふた皿を注文する。どっかもっとハンバーガー屋さんとかに行きたかったんだろうな、とは思うけれど、いや、ガイ・フォークス・インに入る前からそんなことは分かっていたのだけれど、僕はガイの家にあがりたかったんだからここは我慢してもらう。ここでも三人で料理はふた皿たのんだだけ。飲み物は水。それにしてもさっきからずっと流れてるこの音楽は何だ? オアシスとかクイーンとかの英国ロックばっかりが流れてる。建物の雰囲気に全然合わないが、合わないのがむしろ良くて、耳に馴染んだ英国ロックのおかげでだいぶリラックスすることができて、ここでもしお化け屋敷みたいな音楽が流れていたら建物の雰囲気には合うけど食事なんてする気になれない。いや、しかしお化け屋敷みたいな音楽ってなんだろう? お化け屋敷に音楽なんてかかってるのか? まあ、そんなことはどうでも良くて、運ばれて来たフィッシュ・アンド・チップスのお皿に敷いてある紙というかビニールは新聞風のプリントがしてあるやつなんだけど、この記事の写真がジョニー・ロットンで、こんなとこまで英国ロックだ、きっと店員の人がロック好きなんだろう。魚のフライは衣がカリカリというかサクサクというか、とにかくしっかりと固くて歯ごたえがとてもいい。タルタルソースとグリーンピースを潰して酢を混ぜたソースとソースがふたつついていて、グリーンピースの方は水っぽくてちょっと酸っぱくてちょっと苦手な味だったが、タルタルソースはうまかった。娘のために注文したホットサンドはパンが(特に耳が)すごく固くて、娘がいくらナイフでこすってもパンが切れず、ウェイターの人はこの様子を横目で見ていて、ちょっとどっかへ引っ込んだかと思うとギザギザのついたナイフを三本持って戻って来て「良く切れるナイフですんで」とテーブルに置き、ニコッと笑顔を作るこのイケメンのウェイターは長髪とまではいかないけど耳の下くらいまで髪を伸ばした金髪のイケメンで、その笑顔が押し付けがましい笑顔じゃなくてシャイな感じのする笑顔なのがいい。そうだ、ナイフを持ってくる前、僕らがちょっと一口か二口料理を食べ始めたときにこのイケメンは「料理は問題ないか?」と聞いてくれて、その気づかいに英国紳士を感じたんだった。それにしてもなんでイギリス料理はこんなにもお腹が張るのか? ホットサンドは手のひらくらいのパンが三枚くらい重なっててその上からとその間にたっぷりチーズがかかってたんだけど、娘はこのパンを一枚食べただけでお腹いっぱいになり(クセが強いかもと心配してたチーズだけど、食べてみたらそれほど匂いも強くないし、普通に食べられた)、普段だったら娘が残した料理は僕が平らげちゃうはずなんだけど、僕だってもう食べられない。そんなにたくさん食べたわけじゃないのにお腹がパンパンだ。僕と妻はフッシュ・アンド・チップスを二人で半分ずつ食べただけだ。だのに妻は妊娠してるみたいにお腹がふくれている、生まれてくるのは弟か妹か、などと言ってたらムスッとふくれていた娘がプッと吹き出して、はっはっはと笑いだして、爆弾犯の生家のくらい雰囲気に沈んでいたのが明るくなる。笑いって大事なんだな。食べきれないのを詰めて持って帰る箱をください、とお店の人に言ってみると、ああ、箱ですね、と奥に引っ込んで行ったからてっきり持ち帰り用の箱があるんだと思ってたら、戻って来たウェイターの人は「うちの店には箱がない」と言う。それでも探すだけは探してくれる。人のためにできることがあれば自分のできる範囲でやろうとする、というのが英国紳士なのだな。

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