イギリス旅行26

 4月30日(火)ネットで電車の座席を予約するときにどこの席が埋まっててどこの席が空いてるかが一目で分かるようになってるのだから、そして空席はそれなりにいくらかあるんだから、二人がけの席のうちの一つがふさがってるのになんでわざわざその隣の席を予約するのかと思うが、僕らの通路を挟んだ隣の席はサラリーマン風の若い男の人とノートパソコンで仕事か何かをしてる女の人が他人同士でそれぞれひと席ずつここを予約してたみたいで、だけどそのテーブルを挟んだあい向かいの席が空いてるんだから男の人はそっちの空いてる席に移動して座ってて、切符チェックに回って来た車掌はそれを見ても特に何も言わない。日本の新幹線とかだとなんか注意されそうな気がするけど、イギリスでは「いまは空いてるんだから好きに座ればいい、途中の駅でこの席を予約してる人が乗って来たらあなただって移動するつもりなんでしょ?」みたいな顔をしている。ああそうか、途中の駅で乗ってくる人が先にテーブルの向かい側の席を予約してたから、あとから予約したサラリーマン風の男の人は空いてる席が女の人の隣しかなかった、ということなのか。妻が車掌に車内販売の場所をたずねる。なんでもどこかの車両にコーヒーとかサンドイッチとかを買える店があるらしい。それならGの車両だよ、と言われて妻は一人でコーヒーを買いに行き、楽しかった! と顔を輝かせて戻って来た。絶対に行った方がいい、みたいなことを言うので、僕と娘もGの車両を目指して行ってみると、日本の阪急電車烏丸駅のホームとかで見かけるようなキヨスクみたいな狭いお店にお姉さんが二人立っていて、この頃には僕はもう英語で会話をするのが楽しくてしょうがなくなってるから、ホット・チョコレートと、ハムチーズ・ホット・サンドと、それから、えーと、炭酸水をもらおうかな、とか言ってみると、ホットチョコはポテトチップスとセットにするとお得だよ、とお姉さんにすすめられて、じゃあ、ポテトチップスもいただこう、何味があるの? とか言ってみて、ああ、俺の英語がちゃんと通じてるし、お姉さんの言ってることもなんとなく分かる、と喜びを噛みしめる。僕は別に腹減ってないし、買いに行かなくてもいいや、とか言ってるとこういうささやかな喜びを味わいそびれてしまう。会話をするために買い物をする、物を買って言葉を交わして品物をやりとりするという単純な喜びを味わうためにお金を使う、買い物ってこういうことだったのか、と買い物の楽しさをあらためて発見したような驚きと喜び。窓の外は延々と続く緑。山もなく、緩やかにうねる草地がどこまでも続きときどき町が通り過ぎていく、古い教会のまわりにぎゅっと集まった小さな町。あんな古い教会があるってことはずっと昔からここに集落があって人が住んでたんだろうな、とこの教会がまだ新築だった中世のイギリスの風景を想像してみるが、しかしその風景はやっぱり今と同じで緑の平原がどこまでも広がってる中に小さな教会が建ってて、そのまわりに小さな家が集まってる風景。ここの風景は1000年間変わっていないのかもしれないな。風力発電なのか、ときどき風車も見える。白くて高くてでかい風車。電車に乗ってたのは2時間くらいだけど、あっという間にヨークに着いちゃった感じ。それにしてもこの電車でも僕は太陽がまぶしい側の席を予約してしまったんだった。午前中の電車の席を予約するときは西側の席を予約しないとまぶしくてダメだ、次は気をつけよう。ヨークに着いてみるとここの駅舎もだいぶ古い。そうか、ヨークは町が古いだけじゃなくて駅も古いのをそのまま使ってるのだね。でっかい時計があってこの時計もだいぶ古い。僕は19歳のときにこの駅に来たことがあるはずなんだけど、時計のことも駅の様子も何ひとつ覚えていない、初めて来たような気分だ。ヨークの駅では改札を通らなかったような気がする、というか改札口がなかったような気がするが、電車の中で車掌が切符を調べたからいいのか。