イギリス旅行21日目

1997年9月17日、水曜日

 

午後3時4分

 僕はいま香港にいて、東京行きの飛行機の中で離陸を待っている。

 ロンドンでは今8時くらいである。みんなそろそろ活動を開始する頃である。

 イギリスにいるときは秋だったのに、香港に来てみたらまだ夏だった。

 3週間前の行きのときは、一回香港で出国してしまいちょっと困った目に合ったけれども、今回はスムーズに、お金もかからずに乗り換えできた。

 今回は早めに空港に行ったので、ヒースローから香港、香港から成田の両方とも窓際の席に座れた。でも、今は(もう離陸した)翼の上なので地上がよく見えない。イギリスからの飛行機は後ろの方の席で、窓際から少し離れていた。それにすぐに暗くなってしまったし。でも、夕暮れどきの紫の雲を上から見下ろしたときはけっこう感動した。

 行きのときは隣に日本人の2人組のお姉さんが座ったのに、今回は両方とも日本人ではなかった。

 香港までの飛行機に、ビアンカ(*以前のバイト先の名前)の加藤さんに少し似ているスチュワーデスがいた。加藤さんはたしかスチュワーデスの学校に行っていると言っていたと思うので、もしやと思ったけれど、やっぱり少し違うみたいである。加藤さんはもう少しぽっちゃりしていて、眉毛を書いていた。でも、加藤さんに最後に会ってから、もう半年以上たっているから、記憶も薄れたろうし、加藤さんも痩せて、眉毛が生えたのかもしれない。でも、どうでもいいや。

 その飛行機の隣の白人男性は、飯を食うのがとても早かった。

 それと、行きのときの香港–ヒースローもライトが点かなかったけれど、これはもっとひどくて、操作パネルがまったくきかなくて、ヘッドホンも聞こえなかった。でもスチュワーデスが感じ良いので、まあいいか、と思う。

 朝になって窓を開けたら、雲が見えて感動した。僕はこれが見たかったのだ。10年くらい前からの夢であった。小学校のときの理科の金子先生が飛行機から見る雲の話をしてくれて以来、ずっと見てみたかったのだ。

 僕がイギリスで会った(話をした)日本人(もしくは日本で生まれ育った人)は、約10人くらいである。そのうちの半分くらいは大韓航空で来ていた。

 いま乗っている飛行機は新しい型のものらしく、パネルもきくしライトもつくし、座席の前のところにテレビまでついている。最初、間違ってビジネスクラスに来ちゃったのかなと思った。

 有り金を全部キャセイの募金封筒に入れてしまったので(と言っても百円か二百円くらいだけど)いま有り金ゼロである。

 いま日本は5時37分で、香港は4時37分で、イギリスは9時37分である。テレビで「ビーン」をやっている。ローワン・アトキンソンの裏話みたいのもやっている。

 

午後11時57分

 今は東京のアパートにいる。一息ついた後である。

 東京に帰って来てみて、イギリスが恋しくなった。イギリスにいたときはそれほどイギリスの良さはわからなかった、というか、ロンドンやオックスフォードにいたときは、嫌なところだな、と思ったりもした。もちろんイギリスにいたときも、すごく良いところだなと思ったけれど、東京がそれほど嫌なところだとは考えなかった。

 でも東京に帰って来てみて、この薄汚い、格好つけた若いやつやら、酔っ払いのサラリーマンやらでひしめき合っている街を見たら、ああ、イギリスはよかったなとしみじみ思った。また、英語をペラペラ話して、よくほほ笑む人々のいるイギリスに戻りたい。もっと英語を学んで、日本語なんて読まなくてもすむくらいになりたいと思った。

 グラスミアのユースホステルのお姉さんのように、イギリスの山奥のユースホステルで働きたい。くそったれの東京でなんか生活したくない。

 東京は大嫌いだ。ウィンダミアのようなところで暮らしたい。

 留守電はひとつも入っていなくて、楽器は下手になっていて、まだ少し暑いのに秋の虫がリーリーと鳴いている。