こないだのライブではアイドルと対バンだった。誰でも知っているアイドル、というわけではないので、地下アイドルと呼ぶのだろうか。一人のアイドルは楽屋でスマホの画面を自分に向けてずーっとしゃべっている。最初はステージの出演者の声が漏れて聞こえているのかと思ったがそうじゃない。楽屋の隅っこにしゃがみこんだアイドルが、ラジオのDJみたいな声でえんえんとしゃべっている。あの人は何をしているのか? と不思議に思ったが、聞こえてくる声を聞くともなく聞いていると、どうも自分がしゃべっている映像をインターネットに配信しているらしい。スマホの画面にはインターネットの向こう側にいる人の声が文字になって表示されているのだろう、その言葉に対して「いやいや、そんなことないっす」とかなんとか、そんなことをいつまでもいつまでもやっている。
もう一人のアイドルはマネージャーらしき男の人と二人で、ちょっと遅れてやってきた。マネージャーは金髪でガタイが良く、なんとなくマツコデラックスを連想する。アイドルは黒く長い髪で背が高く、おとなしくお行儀がいい感じ。お行儀がいいというか、余計なことはしない、見る必要のないものは見ない、コミュニケーションは最低限にとどめる、みたいな感じ。マネージャーもアイドルも同じ香水の匂いがした。
アイドルの二人は、二人ともステージに出ると歌って踊って、客席にまで出て来たりしてそれはもうすごいのだけど。でも楽屋にいる二人を見ているとショービジネスの闇、みたいなものを感じる。自分のやりたいことをやっているというキラキラした印象を受けず、インターネットだの権力だの金だののためにアイドルをやらされている、みたいなどよんと沈んだ感じを受ける。今さらやめるわけにはいかないから続けている、みたいな。いや、そんなの俺の偏見で、本人は好きでアイドルをやってるのかもしれないけども。でも、楽屋にいる二人のアイドルを見ていてハッピーな空気を全く感じなかったのがさみしい。