noise-poitrine2012-07-01

 佐々木中さんが『夜戦と永遠』という本の中に、言語ってなんだろう、ということを書いているんだけど、そこで佐々木さんが言語としてあげているものがすごくおもしろい。ふつうに人が考える言語とはぜんぜん別のものを、佐々木さんは言語としてあげている。言葉の意味を相手に伝えることが言語の役目だろう、そのためにはなんといっても正確な言葉づかいが大事だろう、とふつうは思ってしまうけれど、佐々木さんがいうには、言語は言語の外においてこそ言語なんだという。佐々木さんが「言語」としてあげているものを書き出すと、

1、口ずさまれる詩の言葉の色彩
2、文体の奇妙な軋み
3、一文のなかに置かれた言葉の匂いが発する齟齬
4、声のトーン
5、訛り
6、口籠もり
7、吃音
8、間
9、発すると同時に採られる挙措
10、言葉が放たれると同時に吊り上げられる片眉
11、見開かれる瞳
12、その奇妙にテンポを失ったリズム
13、言い損ない
14、駄洒落
15、吐息
16、話の接ぎ穂
17、その言葉の色
18、口腔の感覚
19、八重歯に当たる舌先
20、声ならぬ音
21、軋み
22、歯ぎしり
23、あえかな口臭
24、涎の微かな匂い
25、唇の端につい浮かんだ泡
26、痙攣的に歪められる唇
27、その唇にひく糸をすすり込む音
28、筆先に込められた力
29、その力の圧迫で白くなった指先
30、拭いがたい筆跡の癖
31、繰り返される幾つかの文句
32、使ってみたいと思いながらもどうも自分の文章に上手く嵌め込めない語彙の歪み
33、新しいインクの匂いと爪のあいだに入り込んだその染み
34、万年筆の書き味によって揺れる文章の流れ
35、モニタに映し出されるフォントの好悪
36、愛用のキーボードの上で踊る変則的な指遣い
37、そのカタカタと調子外れのリズムを刻む音

と、なっている。
 正確に言葉を伝えようと考えると、言葉が放たれると同時に吊り上げられる片眉だの吃音だのあえかな口臭だのは、余計なものとして排除してしまいかねない。でも、そんな余計なものこそが言語なんだ、余計なものによって言語は伝えられるんだ、ということ。言語は、言語の周りにまとわりつく様々な余計なもの、ノイズがなくては言語として役にたたない。