そうめんと著作権法

 若冲はそうめんが好きだったということを知って、ぼくとS子さんはそうめんを食べたくなり、それだからこないだいっしょにそうめんを食べた。寒いので、温かいそうめんを食べた。作り方は次のとおり。
水、3カップ
鶏ガラスープのもと、大さじ1
薄口醤油、大さじ1
料理酒、大さじ1
ごま油、小さじ1
胡椒、少々
でスープを作る。スープが煮立ったら刻んだアブラゲとマイタケを入れて、火が通るまで煮る。
ゆでたそうめんにこのスープをかける。
刻んだネギとゆずをのせて食べる。
 ゆずの香りがたまらんかった。マイタケのシャキシャキした食感がたまらんかった。ジューシーなアブラゲがたまらんかった。それから野菜炒めのオイスター・ソースもいっしょに作って、湯豆腐なんかも作って(作ってというか、土鍋で温めただけだけど)、腹一杯で苦しくなるほど食べたのだった。

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 小島信夫の『菅野満子の手紙』は全然古本屋に出まわらないみたいで、ネットの古本屋で見つけても2万円とかの値がついていて、とても手が出ない。京都市立図書館には所蔵されていて、ぼくは2年くらい前に一度借りてみたのだけれども、「よし、明日読むぞ」「あさって読むぞ」と思っているうちに期限の2週間が過ぎてしまい、結局ちょっと読んだだけで返してしまった。ぼくはぐうたらなので、本を読むのに長いこと時間がかかる。1年くらい前から読み始めた小島信夫の『別れる理由』だって、まだ1巻の途中までしか進んでいないし。
 そんじゃあどうすんのか? やっぱし買わなきゃだめなのか? 2万円払って古本を買うのか? いえいえ、実は買わずに『菅野満子の手紙』を手に入れる方法があるのですよ。ぼくの働いている大学図書館で手に入れればいいのだ。
 といっても、大学図書館には『菅野満子の手紙』が所蔵されていない。60万冊とか本があるのに、『菅野満子の手紙』はない。ないんだけれども、『菅野満子の手紙』が本になるまえに連載されていた雑誌のバックナンバーが全部所蔵されているのだ! 
 『菅野満子の手紙』は集英社の『すばる』に1981年6月から1985年10月まで連載された。53ヶ月。それを全部コピーすればいいのだ。この国には、表現を保護するために著作権法という法律があって、この法律によると、「図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発表後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合」には、著作物の複製ができることになっている。「発表後相当期間を経過した定期刊行物」というのは、新しい号がでたあとの前の号の雑誌のことで、だから1980年代の『すばる』に載っている『菅野満子の手紙』を全部コピーしてもぼくは法律違反にならない。捕まって罰を受けなくてもすむ。1号につきコピーする枚数が5枚あったとして、5かける53で265枚。コピー代が1枚10円だから、全部で2650円。たった2650円で2万円の本が手に入る!
 大学図書館の書庫には、『新潮』も『文学界』も『文芸』も『海』も『海燕』も、バックナンバーがずらずらと並んでいる。このバックナンバーを探せば、古本屋でもなかなか手に入らない小説がいくらでも手に入るではないか!
 なんでこのことに今まで気づかなかったのか。いや、気づいてはいたんだけれども、「53冊とかコピーするのめんどくせいな」などと思って、気づかないふりをしていたのだった。しかしそうやって気づかないふりをしているうちに人生はどんどん過ぎて行ってしまうのだもの。