白ねこ

百円で買って来た茂木健一郎の『脳と仮想』の古本を寝る前にパラパラと眺めていたら、テレビゲームのことが書かれていて「私たちという生身の人間が、仮想の世界に入り、やがて現実の世界に戻っていく、その行き来にこそ、もっとも興奮すべき可能性が秘められているのだ」とか茂木さんはいっていて、それを読んだぼくは「そうか、ゲームをすることは良いことなのか」と思い、もう何ヶ月も前に途中であきて中断していた「ドラクエ6」をスーパーファミコンに差し込み、久しぶりに電源を入れたのだった。ムドーの城に行く前の洞窟がややこしくて、それでぼくはいやになって中断していたのだった。夜中にひとりもくもくと洞窟の探検をしていると、空腹もがまんして惰性で二時間も三時間もドラクエをしてしまい、結局ムドーをやっつけて、ダーマの神殿を復活させたのだった。そうしたらなんと、主人公たちがいろんな職業に転職できるようになったではないか! モンスターも仲間になっちゃうようになったではないか! あきて放り出していたはずのドラクエがとたんにおもしろくなり、これはひょっとすると毎晩遊んでしまうことになるかもしれないという非常にヤバい事態にはまりこみそうで、なんだかおそろしい。
去年の夏は「ドラクエ5」をやっていたのだった。ドラクエ5はおもしろかったな。お父さんにくっついて歩いていた主人公が大人になって、結婚もして、子どもも生まれて、結局その子どもが魔王をやっつけるのだという、その時間の長さが良かったな。主人公の石にされた嫁さんを見つけたときは少しなきそうになったくらいのものだ。ドラクエ5、中古ゲームショップに売ってしまったけれども、あれは売らなければ良かった。売っても五円にしかならなかったものな。
さて、夜中の二時とかにドラクエをしていたら、アパートの部屋の外に猫が来た。猫が来るなんてしらなかったぞ。とりあえず部屋にあったさきいかみたいなやつをあげてみた。

しゅっとしたきれいな白ねこ。
ところで映画館でしゃべるおじさんは、もしかしたらふだん奥さんとうまくコミュニケーションがとれていないおじさんなのかもしれない。ふだんなにかしゃべっても奥さんや子どもにしかとされたり、馬鹿にされたりするので、映画をみているときにここぞとばかりに自分の博識さや目のするどさを奥さんに示そうと思い、自分が映画から読み取ったものを奥さんに伝えるのじゃないだろうか。いや、そんなことを特に思うわけじゃなくて、ほとんど無意識で言葉が口から出てしまうのだろう。そうやって言葉をかけることで夫婦の関係がどんなふうに変わって行くのか、ぼくはまだよくわからないけれども、きっとむっつりと黙ってふだんも全然会話とかしない夫婦よりは、いい関係がもてている夫婦なのかもしれないなと、ちょっと思う。
そしておれはこれから選挙に行くぞ。