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 あれ、気がついてみればもう明日から6月なのか。まだまだ半年くらい先だな、と思っていた甘もの会の「わたし今めまいしたわ」の上演がもう2週間後にせまってきてしまっている。やばい、緊張する。
 甘もの会では僕は戯曲を書くだけで、あとはポイと演出家に送信して、当日上演を観に行くだけ、すべて丸投げ、というスタンスなので、まあ、気楽なものなのだけれど、しかし今回はこれまでの公演と違い、終演後のトークというのに僕は出ることになっていて、しかも一緒にトークをするのが小説家の磯崎憲一郎さんなのだ。これはもう、考えただけで緊張して胸がドキドキしてしまう。いったい僕は磯崎さんとどんな話をするのかしら。
 「わたし今めまいしたわ」を書き始めたのは3年前で、そのときは題名を「東京サイバーパンク」というものにしようと漠然と考えていたのだった。SF好きの田舎の高校生が東京の大学に入学してどうにかなる、という筋を考えていて、それを途中まで書いたのだけれど、なんだかあんまり話が面白くならなくて、しばらくほっぽらかしているところに僕に娘が生まれた。で、そうなると僕はがぜん娘の誕生ということに興味とか関心とかが持って行かれてしまって、書きかけの「東京サイバーパンク」は全部消しちゃって、それで妊婦の人の話を書き始めたんだった。臨月に入ったかや子さんという女の人が里帰り出産のために実家に帰って来ていて、だれもいない実家で一人で留守番をする、という設定だけを決めて書いて行った。一人で留守番しているだけの話なんだけど、書いているうちに登場人物が9人も出て来るようになってしまった。
 SFネタを使いたい、という3年前から考えていたことは「わたし今めまいしたわ」の中にも生きていて、ちょっとだけSFの要素が混じっている。SFの中でもサイバーパンクというジャンルが僕は好きで、サイバーパンクというのは人類が宇宙に出て行かなかった場合の未来、みたいなことを書いていて、映画の「マトリックス」とかマンガ映画の「アキラ」とか、あんなやつがサイバーパンクに分類されるのだと思う。
 大学生のときだったか大学を卒業してすぐの頃だったか、イタリアのサイバーパンク映画「ニルバーナ」というのを観て、僕はそれにすごく感銘を受けたんだった。西暦2050年に男の人が逃げた奥さんを捜すという話。でも、捜しているうちに、逃げた奥さんは実はもう死んじゃっていた、ということが分かってくる。奥さんは死ぬ前に自分の記憶をツマヨウジみたいな金属にぜんぶ保存していて、そのツマヨウジみたいなのが未来のフラッシュメモリみたいなものなんだけど、それを読み取る穴が頭に開いている人、というのが出て来て、その人の頭の穴にツマヨウジみたいなのを入れると、読み取った人が死んだ奥さんの記憶を思い出すことができる、ということになっていて、それがすごくおもしろいと15年くらい前の僕は思ったのだった。で、そのネタをどこかで戯曲に使いたいな、と長いこと思っていたんだけど、今回「わたし今めまいしたわ」でやっと使うことができた。
 僕は戯曲を書くときいつもそうなんだけど、先のことをあんまり決めないで思いつきだけでひたすら進んで行く、という書き方を今回もしていて、とにかく最後どうなるのかとか、途中で何が起こるのかとか、起承転結とかを考えないで書いていて、そうするとすぐに戯曲が単調なつまらないものになってしまう。ので、とにかくいろんな要素をぶち込めるだけぶち込むようにがんばって書いた。いろんな場所やいろんな時間が出て来る。出て来るだけじゃなくて混じる。混じって混線する。
 このブログを読んでいる人に東京方面に住んでる人もいるかもしれないので、そういう人はぜひ「わたし今めまいしたわ」の上演を観に行って下さい。ここに書いたことを読んだだけだとどんな話なのかよくわかんないと思うけど、とにかく一番のテーマは妊娠と出産だと思うんで(いや、違うかもしれない。記憶とか死とかがメインのテーマなのかもしれない。その辺は自分でも曖昧で、というのはテーマを決めて戯曲を書くわけじゃないからで、書いているうちにいろんなテーマが出て来て混線してしまう。でも、とにかく妊娠とか出産とか記憶とか死とか、あとファミコンなんかがテーマなのだと思う)、そういうのに興味がある人は観てください。興味がない人でもできるだけ観るようにして下さい。なにしろ甘もの会の公演は3年ぶりなんで、もしかしたらまた次は3年後とかになっちゃうかもしれないんで、できるだけ観てください。くわしくはここをクリック。

 これは演劇には関係ないんだけど、娘の保育園の近くで発見した「小島信夫農地」の写真。小島信夫というのは僕の好きな小説家の名前で、だから娘をうしろにのせて自転車に乗っているときに眼の端にこの杭がちらりと入ったときにはびっくりして3度見くらいしてしまった。たまたま同性同名の人がこの農地を所有している、というだけなのだろうけども。
 そうそう、つんじ君、君はこのブログを読んでいるだろうか? 君に貸した「別れる理由」の1巻は、あれから一年半くらいたつけども、どうなったかしら? そろそろ返してもらいたいのでよろしく。